電撃文庫と堕落生活*でんだら*

文字サイズ[中]推奨

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

Dragonic Flower 外伝

そういうわけでどらふら外伝

本編はこちら

主に戦闘が書きたくて書き始めました。
5以降は最高に戦闘の連続だと思います。


まあそんなところもおいておいて外伝です。

望のリクだったのですがかなり時間をあけてしまって・・・。
まあ適当に読んでください。


本編読まなくても読めることは読めるから本編別に読む必要はないけどね。


じゃあどうぞ。

批判反論拒否野次抗議そのたもろもろあったらさっさとコメント書いていけ。改善してやるぞコノヤロウ。
あー、どっか小説のところに晒すかなあ

では追記で。


ちなみに龍花はこの登場人物であって、自分を重ねてるとかそういうことは一切ありません。
むしろHN考えるときにこっからとっただけであるので、混同しないで、ただの1登場人物としてみてくださいお願いします。
http://dragonicflower.web.fc2.com/a/n/bangai1.html


<序文>

『アイルランド人のとあるキリスト教徒がローマ皇帝に処刑された日。
 二世紀から三世紀への過渡期頃のこと。ローマ皇帝が、若者らが戦争へ行かないのは伴侶と別れる悲しみが嫌だからだ、と考えて、結婚を禁止した。当然隠れて結婚式を挙げるものが現れるが、その手助けをしたのが彼。発覚しての処刑である』:はてなdiaryより引用。



<プロローグ>

 そんなわけで、初めて一人で台所に立っている明日香であった。

 大体において、料理などしたこともない。
 当然出来るものなどどうしようもないものになってしまうのだから、しょうがないではないか。
 ボウルの中にある時点で、中身は既に黒ずんでいるし、軽く粘着質になっているその黒ッぽいような茶色っぽいような何かは、それをかき混ぜているおたまにへばりついて、おたまを黒くコーティングしていくような、すさまじい様子を描いている。
 なんでわざわざかき混ぜるのにおたまを使っているかと言うと、本に書いてある器具がこの台所にはなかったからだ。いつもの料理担当は龍花で、龍花が使って、龍花が片付けているために、しっかり置いてある場所がわかるのは龍花だけなのだから。(まあそのおかげできれいな台所でちゃんと調理が出来るのだが)
 第一、龍花に手伝ってもらうんだったら最初から一人でやっていないし、一人でやることに意味があると言うものなのだ。
 そして問題なく、(それは当然、明日香にとっては問題なくと言う意味だが)調理は続く。
 そのこげ茶色の液体と言うか固体と言うか微妙なゲル状ともいえないような物体を、台所の下らへんに置いてあった型の中に流し込み、あたりに散らばるその物体の散乱した様子など気にもせず、型ごと大皿に移して、そのまま、まだ熱をもったそれを、冷蔵庫の中にぶち込んだ。

 夜中の三時のことである。

 二時間後に再び物音がしたが、気付いたものはいない。




<1章>

「ふああぁぁぁ」
 夜もしっかり明けた朝になって龍花がおきてきた。時刻は六時。
 龍花の朝は健康的に始まる。
 別に体操まではしないが、適当に身体を伸ばし、とりあえず昨日洗いきれなかった洗濯物を洗濯機にぶち込んで洗剤を目分量で投げ込む。ボタンを押して洗濯機を回し、放置。
 顔洗って歯磨いて、髪をとかして、
 続いて朝食の準備。
 と、
「ん? あれ?」
 昨日と食器の配置が違うのに気付き何がおきたのかと探ってみる。
 別に冷蔵庫の中にあるものは減っていない。いつもどおりだ。今日のためにひとつにまとめてパックにしておいた具材も減ってない。食器もちゃんと全部洗ってあるし、調理器具も・・・、
 いろいろ見ていた龍花だったが、おたまとボウルが二つ。少しだけ湿っているのに気付いた。
 誰かがつかって洗っておいたのか? つか誰だよ。怖いな。誰がやってても怖いよ。ちょっと考えてみた想像に自分でツッコミを入れると言うむなしい行為をしてしまった。
 キノさんは無言でやってそうだけど、何のためにするのか理由が見えないし、
 洸平は、別に軽々作りそうだけど、それを何も言ってこないって言うのがおかしい。
 明日香は論外。あんな異次元の食い物が作れるんだったら別の平行世界でがんばればいいと思う。
 じゃあ誰が? と聞かれて答えられないのだから、まあ誰も使ってないと言う方向で行くか。だいたい隠れて使ってるってことは、バレて欲しくないってことなんだろうから、オレが暴いちゃうっていうのも無粋ってもんだろう。
 そう勝手に一人で納得して、普通に調理を始める。
 いつものとおりに。いつものとおりに。何も気付かずに。

 洸平の朝は適当に始まる。
 別になにも特別なことはしないし何もしない。
 普通に起きて洗面所で適当に過ごして、適当にダイニングテーブルに着く。
 そしているものとおりに明日香がおきてくるのを待つ。
 乙はいつもいつの間にか席に座っているので待つも何もない。必ず食事が始まるときにはいるからだ。そんなことを考えながら、龍花をからかいつつ、いつものとおりに過ごす。
 いつものとおりに。

 明日香の朝はいつもまったりとはじまる。
 ぼーっとしながらいつもどおりゆっくりと起きて、寝ぼけまなこで顔を適当に濡らす程度に洗い、ぼさぼさの髪の毛のまま、うべーっと言う感じでダイニングテーブルの上に倒れこむ。
「おはようございます明日香さん。今日はいい天気ですね。まあ僕にとっては雨じゃなけれ」
「その口上は前にも使った。マンネリ化してるんじゃねえよ洸平。というかマンネリ化もなにも最初から言うなうるさい。黙れ。死ね」
「まあとにかくおはようございます明日香さん。今日は一段と元気がありませんね」
 心配してるのかしてないのか微妙な、明るい声で洸平は聞いてくる。
「まーね。昨日も落ちたの3時だったし。うがー。ねむー」
「眠いんならコーヒー飲んどけ。ほれ。和食にコーヒーだ。最高の組み合わせに悶え死ね」
「ドウモアリガトウゴザイマスリュウカサマ。まあいいわ。眠気取れるし。ちょうど良いかもしれないわね。ありがと」
「おっ、カナが「お礼」を覚えたぞ。レベルが上がったんだなよかったよかった。で、何の技が消えたんだ?」
「コロスワヨ」
「カナは「温和なココロ」をきれいさっぱりわすれてしまった(機械っぽい声)」
「あー洸平? そこにある私のナイフとってくれる?」
「いやいやまてまて冗談だ冗談だ少し待て。飯をさっさと食おうオレを殺すのはその後・・・じゃねえ殺すな。まてまてすまんかったごめんまってちょっとそのナイフオロシテタノムカラ・・・・・・」

そんないつもどおりの、でも明日香にだけは少しだけ特別な一日が始まる。




――Dragonic Flower 番外編―― <とある彼女の2月14日>




<2章>

 学校に着くと、きゃーきゃーぴーぴーうるせえヤツらが大量発生して憂鬱な気分になるのはオレだけじゃないよな。
 と、一人チョコなんてもらえる当てのない龍花はひとりごちてみる。
 不良っぽい外見は逆にプラス要素となって働いてくれないかなー、とココロのそこで思ってみたりもするが、基本的にそんなことはなく、普通に普通の対応をされて落ち込もうにも他に同類がいるので感情抑制。
 全体的にはオレ普通の人。というか学校と言う個性の中で集団に埋没した普通の人間とでも言ってやったほうがそれっぽいか。べつにそんなことはどうでもいいんだが・・・。
 そんなことよりなにより、全てにおいて問題なのは、オレの同僚で同級生の森知洸平がうずたかくつまれるほどのチョコレートをもらってる理由を、小一時間ほど問い詰めたい気持ちになってくることだと思う。というかそんなにもらってどうするんだ? 食うのか? 捨てるのか? 再び湯煎にかけてでっかいチョコにしてお返しするのか?
 全然ひとつももらえる気配がないと、もらってるやつを恨むようなオーラを出し始めるのが男子の宿命だと言うことを忘れてはならない。
 まして健全な高校男子ならば、女子と付き合いたいのは本望だろう。いや妄想の域か。
 そんな浮かれた空気に当てられながら一日を過ごすのは本気で憂鬱になってしまいそうで怖い。いやもちろん後ろにいる田中も、もらえない組の一人であることには変わりなく、なんかどす黒い凄いオーラを出してて怖い。つかその被害にあってるの俺なんですが・・・。
 うわー。なんか今日だけ席替えしたくなってくるわー。

 ・・・という一日を過ごして既に下校時刻。

「なあ洸平。その手に持ってる山のようなチョコレートはどうするんだ?」
「食べますよ? 責任持って」
「いやしかしながら僭越ながら申し上げてやるが、・・・何キロあるんだよそれ」
「さて? わからないですけど、龍花さんの体重よりは軽いと思いますよ」
「それより軽い体重のやつがいたら見てみたいわ。しかしまた5キロぐらいあるんじゃねえか?」
「人徳ですよ人徳」
「ウゼぇ。殺してぇ」
 まったく寒さがなくならないこの季節に、二人して寒い会話してるのもむなしいと思いながらも、それでもしたくなるのは人の性なのだろうか。
 と哲学的なことを考えてるようなフリをした、ただの無駄思考で遊びながら、二人は帰路に着く。




<3章>

 やばいそろそろ龍花が帰ってきそうだ。
 高梨明日香は一人、無駄に興奮しながら二人(正確には龍花一人だが)の帰りを待っていた。
 何日も前から計画して昨日実行に移したこの案は、龍花に渡すときのさりげなさがポイントだ。そう。意識しすぎてもよくない。なんにも思っていない様に見せかけてさりげなく渡す。そう・・・「義理チョコ作りすぎちゃって余ったから食べてくれない?」
 いやいやいやいや。これじゃあからさますぎる。大体、学校に行ってない私が義理チョコをあげる相手がいるはずないということに、龍花は気付いてしまう。というか普通におかしい。
 だめだだめだ。別の台詞があるはずだ。もっと自然に、意識しないで、渡すのがさも当然のような台詞が・・・。「どうせ誰からももらえなかったんでしょ? これでもあげるからその落ち込んだ顔を何とかしてきなさい」
 いやちょっと待ってちょっと。なんかいつもの私と違うイメージになってない? そもそもなぐさめるって言う時点で何か感づくんじゃないか? そうならないような言葉を考えてるのにダメじゃん。
 えーえーえーえー。なにがいいだろうなにが・・・。

 カッカッカッ・・・

 そんなことを考えているうちに、いつの間にか二人の足音が乙探偵事務所のビルの外まで近づいてきた。
 やばいやばいやばいわよこれは本気でマジでやばいって。まだ何にも考えてないっていうのに何で帰ってきちゃうのよ!! あーもー! そんな急に思いつかないわよ! ホントにどうしろっていうのよ龍花は!!
 無駄な逆ギレをまだここにいない龍花にしつつ、とうとう聞こえてきたドアを開ける音に気付き、もうどうしようもなくなった明日香は、とりあえずチョコを渡す予定だったリビングから自分の部屋に超特急で戻っていた。




<4章>

 帰宅してドアを開けた瞬間に、どたどたと誰か、まあ誰かといってもキノさんが走ってるところなんて戦闘以外で見かけたことなど一度たりとも無いので明らかに明日香だが、その明日香が階段を駆け上がっている音がした。
 別に龍花は、「明日香が龍花にチョコをあげようとしていて、その口上を考えている途中に何も考えていないのに当の本人が帰宅してしまって、どうしようもなくなって渡すにも渡せず焦って自室に走って戻っていった・・・」なんてことはわかりようが無く、知りようが無いので当然知らず、そのときはただ単に、何騒いでんだあの馬鹿は。と思っただけである。
 そんなことしか考えていないのも、隣の大馬鹿者が大量のチョコレートを持って帰ってきていることに対する怒りが脳のほぼ50%を占めているからであって、目下、龍花の思考の中心は、洸平に如何にして嫌がらせをすることであるが、今まで何度も同じ事を繰り返し考えていることだけあって、そんなのが無駄なことは自明のこととして理解していて、何をすればこいつが嫌がるかは未だに人類の七不思議に数えてあげたいぐらい不明なので考えるだけ無駄だ。だがそれでも考えざるを得ないのはどこまでもイライラしているからという単純な理由からであって、別に洸平をねたんでいるとかそういうわけではないのだよワトソン君。さて誰に言い訳してるのかねオレは。
 靴を脱いでオレは手ぶら、洸平は5キロぐらいの荷物を持って、乙探偵事務所の中に入っていく。
 まったくもってこの寒さはなんなんだろうかね? 2月と言う身体が冷えてくるこの季節に何故か暖房もつけずいったいここに住んでいる人間は何を考えているのかと問いたくなるが、よく考えてみればキノさんはいつでも黒コートだし、明日香はまぁ脳に異常が出たと考えれば普通なのでしょうがないともいえなくも無い。
 だがしょうがないからといってそのままにしておく道理は無いので、自ら暖房をつけるためにこの家でリビングと呼ばれている部屋に行く。リビングといってもまあただ単に全員があつまるような部屋をリビングと呼んでいるだが。
 さらによくよくかんがえてみれば、玄関をあっためている意味はどこにもなく、リビングについてみれば普通にあったかい空気がオレたちを迎えてくれた。ビバ、文明の利器。
 リビングにいたのはキノさんだけだった。
 いつものとおりに帰宅したので、いつものとおりに明日香も同士並行作業をしているかと思っていたので、明日香がいない光景にちょっと拍子抜け。まあいないからといってこれといって問題は無いので気にすることも無いと思うが、なにか引っかかったのでよくよく考えてみれば、明日香はさっき階段を上っていった気がする。気がするというか音がしたというか、まあ別にたいしたことではないだろうと適当に流すことにする。それでいいだろう。
 だがしかし、たいしたことではないだろうと適当に流せないようなものが目に入ってきたんだから、それはそれでなんとかしなければならないだろう。とりあえずツッコミ待ちのようなので、わざわざツッコんでやるが、
「なあ、洸平よ」 
「なんですか? 龍花さん」
「その右手に持っている物はなんだ?」
「ああ、これですか? チョコレートですよチョコレート。チョコレートおいしいですよねチョコレート。カフェイン最高ですよ。やっぱりチョコレートはいいですよね」
「俺が聞きたいのは、それが誰のものかって事なんだが。なんでオレのバックの中にあったものが貴様の手のひらの中にあるのか明確な理由を添えて教えてもらおうか」
 そういうことで。オレが唯一もらった、クラスの委員長が全員に配っていた義理チョコが何故か洸平の手の中にあったのだ。いつの間にスッた? まったく気付かなかったぞこの野郎。バッグの底に入れといたのになんてやつだ。
「残念ですねぇ。僕のチョコがいつの間にか龍花さんの荷物の中に紛れ込んでいたので返してもらったんですよ。この場合何が残念なのかはまったく気にしなくていいですよ。まったく意味もありませんし」
「返せ」
「しょうがないですね。僕はチョコレートがすきなんですよ」
「何だそれは? 新しい日本語か?」
「言語はどんどん新しくなっていくものなんですよ? ということは僕が日本語の新規開拓者ですかね?」
「いい加減黙って返せ。むしろ死ね」
「大丈夫です。死ぬときはチョコレート食べて死にますから」
「いい加減黙って返せ。そろそろキレ始めるがいいか?」
「よくないので・・・逃げさせていただきます」
 そう言いながら、洸平はチョコを持ったまま自然な動きでリビングから外に出るためにドアを開ける。あまりに自然すぎて反応が遅れたのが運のツキだったのかもしれない。
「あ! ちょッ! 待ちやがれテメェ!!」
 慌てて椅子から立ち上がり部屋の外に出て追いかけようとするが、どうやら既に階段を使って別の階に行っているようだ。
 正直、別に義理チョコだからどうでもいいんだが、アイツに取られるという時点で虫唾が走る。無条件で半殺し決定だ。殺せないという意見はこの際無視。殺せなかろうと、別に肉体的になにかしてやればいいんだが何していいのかはわからん。だが殺す。
「待てこの野郎があぁッ!!」
 そして龍花は洸平の後を全力で追いかける。




<5章>

 もういい加減覚悟を決めないとだめになってきそうで怖い。
 これ以上引き伸ばしたところで何か変わることがあるだろうか。どうせ渡してしまうんだから、早かろうが遅かろうが関係ないじゃない。そうよ。さっさと渡しちゃって、・・・でもどうやって渡そう。・・・何て言って渡せばいいのかわからない。
 もういっそのこと何も言わないでチョコだけ渡してしまおうか。いやそれじゃあだめだ。そんなんじゃなんて思われるか。本命だって思われても困るし、んうううううぅぅぅぅう。どうしよおおおぉぉ。
 一人自室で悩んでるのは、まあ当然のごとく明日香である。
 龍花が帰ってきて、あわてて自分の部屋に戻っては見たものの、チョコを渡したいのと、渡す方法が思いつかないというので悩み続けている。
 今までずっと頭を使わないような生き方をしてきたからダメなのよ。・・・って違う違う。そんな過去を振り返ってる時間が合ったら何か行動しなきゃダメなんだから。何か・・・どうすれば・・・。
 あ! そうだ!
 そういえばこの前テレビでメッセージカードとか言うものを使ってた気がする。
 よし! もうこれしかない!
 ・・・でも・・・何を・・・書けば・・・。ああああああああぁぁぁぁ。
 「あなたのために作りました」って何これ! なんなのよこんなあからさまな! 「ひとつ余ったからあげるわよ」こ・・・れでいいような・・・気もするけどなんか不安が残るから別のにするとなると「あげる」ってそんないつの間に私は無口キャラになったのよ!! 「義理チョコ」とだけ書いておけば、ん・・・これ・・・は、わかりやすくて、いいんじゃないかな?
 よし! もうこれにするしかないわよ。これ以上考えていいのが思いつくかなんてわからないんだしこのままで言っちゃうしかないじゃないの!!
 龍花が帰ってくる1時間前から行われていた脳内闘争は終了し、今はただただ自分の行動を実行する機械のように、なるべく後悔をしないように、自分の意思を頭の片隅においておいて、カードを書き、渡す準備を整えた。
 リビングにおいてあったら洸平か所長に見つかっちゃうから、置いておく場所は龍花の部屋だ。鍵はついてなかったから勝手に入れるはずで、実際何度か入ったことは在る。
 きれいに整頓されていて、明日香の部屋とは比べ物にならないくらいきれいな状態だったことを覚えている。
 そしてその部屋の真ん中の机の上にこのチョコを置いて、サッと立ち去ればOKだ。他にすることなんかないからそれだけやって戻ればいいのよ。そうよこんなに簡単じゃない! なに遠慮してるのよ。しっかり実行に移すのよ!
 そうして明日香は部屋を出る。一歩一歩確実に。しっかり床をふみしめて。緊張をほぐして、なるべく自然体、自然体。
 ドアを開けて廊下に出る。




<6章>

 洸平の野郎を追いかけることに理由など必要ない。
 理由など無いのではなく全ての行動が理由になるので探す必要が無いということだ。つか存在自体が既にムカつくので問題は無い。
 全力で階段を駆け上がり、洸平を追いかけるが、何故かオレの全速力を持ってしても追いつけない。アイツの足音が走っているようには聞こえないのだが、どんな人類の神秘を使ったのか、アイツは歩くテンポで走る術を身につけたようだ。とてつもなく無駄なうえに、オレにとって有害なので即刻禁止してやりたいが、禁止するための接触がまず出来ないという不幸。これは不幸以外の何者でもないと考えながら、あいつをぶん殴ってさっさとチョコレートを取り返すために全速力で追いかける。
 階段を上りきり、洸平がいるであろう階にたどり着く。
 ついでに言ってしまえば、この階には明日香の部屋もある。




<7章>

 ドアを開けて廊下に出ると、誰かの足音が聞こえてきて、びっくりした。廊下にでないと聞こえなかったとは、よっぽど集中していたんだろう。周りの音が聞こえなくなっていたに違いない。
 誰の足音か考え、瞬間的に洸平の足音だと判明し、ほっと胸をなでおろす。
 そして前の曲がり角から洸平が出てきた。
 走って・・・る・・・の? 足音は完全に歩行のスピードなのだが、実際の速度が明らかに速いことに違和感を覚え、足元をよく見てみたら、大股で歩いてるだけだった。いやでも大股って言っても上半身が全然ぶれてないあたり、見た目は歩いてるようにしか見えないのでかなり不気味だ。
「えーっと、・・・あんた何してるの?」
「人間誰しも何もしていないということはないはずだということに気付いてない人が多すぎますよね? 何もしていないときだって『何もしない』という行為をしていることになるんですからそこが言葉のおもしろいところで・・・・・」
 その速度のまま喋りだしたかと思ったら、質問に答える前にすれ違ってそのまま奥に歩いていってしまった。ホントになんだったんだろうか?
 その後の言葉が気になって、すれ違った洸平のほうを向いて聴覚を集中してみたら、まだ喋っていた。誰もいないところで喋れるのも何かの能力なのかな? と考えながら、洸平の話を聞いてみると、
「・・・すよね。明日香さんもそう思いませんか? 明日香さんが今聞いているという行動も能動的なものでそれ自体が聞いているだけなのに『聞いている』ということをしているんですよ。その理論でいくと結果的には誰しもが考え」
 私が聞いていることを前提として喋っているあたりが洸平が洸平たるところだと思った。そのまま最後まで聞いてあげようかとも思ったのだが、流石にそこまでの長口上を聞いている時間なんて無いことを思い出した。
 私にはやるべきことがあるんだから早く終わらせないと。
 そうして、龍花の部屋に行くために身体を向きなおすと―――



 目の前に龍花がいた。




<8章>

 階段を出て走り出す。階段でも走っていたが、さらに加速。
 当然、洸平との距離は縮まってしかるべきだが、何故か離れていくように感じているのは何か超自然的な力が働いているはずだ。そうに違いない。そう考えてでもおかないと報われない気がしてならない。
 報われる報われないは別として、曲がり角を曲がる。
 本来ならこの先に逃げる洸平の姿が見えるはずなのだが、見えたのは何故か明日香の姿だけ。まあそれでも一本道だし足音も聞こえてくるし、この先に洸平がいることは確実なのでとりあえずダッシュ。
 どうせ忠告なんぞしなくても聞こえてるんだろうから避けてくれるだろう。
 と、安易に考えていたオレは、すれ違いざまにこっちに気付かないで振り向いた明日香と

 目が合った。

「うおっ!!」
「えっ! ちょッ!!」
 てっきり避けるものかと思ってた明日香がまったく動かず、ましてやいきなり驚き始めて厄介な動きをしてくれたおかげで、二人の身体は鈍い音をたてて衝突した。
 その時、明日香が手に持っていたものは言うまでもなく渡すはずのチョコレートで、これまた言うまでも無いが、当然それは明日香の手を離れて、天井近くまで舞い上がり、二人が倒れると同時に、確かな速度を持って地面に落下した。
 さらに最悪なことに、龍花は何の因果かそのチョコレートの入った箱を目指しているかのように見事なまでに派手に倒れ、なにか擬音で表現したくないような音を響かせて、完膚なきまでに潰しきった。自分がもらうはずだったとはまったく知らずに。
 何秒間か二人は倒れていただけだったが、数秒して明日香が先に起き上がった。
「っっ、いったぁぁ。これは何なのよ、いったい・・・。もぅ」
 明日香の声に当てられて、龍花もやっと起き上がった。背中に何か違和感があるが、今はそれどころではない。
「クソっ、痛いのはこっちも同じだっての。何で避けなかったんだよ、ったく」
「そんなの避ける避けない以前の問題に、あんたが声かければいいでしょうがッ!!」
「声かけてもかけなくてもカナなら気付いてるはずだろうと思って無視しといたんだよ。走ってた俺の足音聞こえてただろうが」
「洸平のほうに集中してて聞こえなかったわよ!」
「周りに気をつけとけよ」
「声かけなさいよ」
「気が散ってたのはそっちだろうが」
「あんたが気をつければいいことでしょうが」
「うぅぅぅぅぅぅ」
「うぅぅぅぅぅぅ」
 二人はうなりながら目線で火花を散らす。お互いがお互いを見つめあい、はたから見ればいい状況に見えなくも無いが、二人とも顔が怒っていては、そんなふうに思う奴もいないだろう。
 実際、今現在の二人の仲は悪い状況だった。まあ、さらにここから悪くなるのは確定なのだが、龍花はまだ知らない。
 先に吹っ切れて目線をそらしたのは明日香だった。
「あーもーやめやめ。こんな不毛なことしててもしょうがないわ。私にはやることがあるんだから邪魔しないでくれる?」
 こころなしか明日香の声が上ずっているのに龍花は気付かない。
「まぁ確かにこんなことしてても無駄だな。オレも洸平を捕まえないといけないし」
「そうそう、だからさっさと・・・ってあれ? え? どこにいったの・・・?」
「ん? あ、これか?」
 そして龍花は腰を上げる。その下には潰れたチョコの箱が無残な姿で横たわっていた。
 一瞬訪れたのは沈黙、とっさに龍花は謝罪の言葉を紡ぐ。
「あ、ちょっすまん! 大事なモンだったか!? 気付かないで踏んじまって、ってうおっ!! いやちょっ! 待て! 待てって!!」
 無言で飛んできたのは右脚。とっさに避けられたのは行幸だろう。後ろに倒れこむ寸前でなんとか体勢を立て直す。そうでもしておかないと、死にそうで怖い。・・・と思っている矢先に、完全にノックアウト狙いのハイキックが高速で飛んできた。なんとか避けて、話しかけようとするも、うつむいていて表情がまったく見えない。
「ちょっと待て! すまんごめんミスった! だからちょっとやめっ! おいそれ食らったら真面目に逝くって!! というか待ってくださいお願いだから!!」
 いくら声をかけてもまったく反応する気配がない。反応する気配がないというのはこちらの言葉への反応であって、要するに静止する様子がまったく見られないということであって、それはすなわち、いつまでも連続でキックが飛んでくるということに直結しているのではないか!? やばいぞこれは真面目に! いつまで避けられるかわからねぇ!
 明日香は表情を完全に殺して、やり場のない怒りを脚に込めて蹴ってくる。その速度たるや、洸平の速度に匹敵するかと言うほどのありえない速さ。
 というかそんな大事なものだったのかよそれは! これはホントにやばいんじゃねえか!?
 一回の攻撃ごとに一回の回避運動が起こる。当然狭い廊下で横に逃げることなどかなわず、ましてやそれだけの破壊力を持ったキックを受け止めるわけにもいかず、廊下を後退するしか出来ることはない。毎回毎回後ろに逃げているのだから、最後には逃げ道がなくなるのはわかりきってることで、何度か目の攻撃で、とうとう突き当たりの部屋の入り口まで逃げてきてしまった。
 とっさの行動で、なんとか後ろ手にドアを開けて部屋の中に転がり込む。
 どうやらこの部屋は物置のようだ。といってもそこまでモノが置いてないから、まだそこまで頻繁には使われていない物置なのだろう・・・。なんて観察している場合ではなかった。周囲を見回している間に明日香の蹴りが目前まで迫ってきている。
「くっそ!」
 悪態をついて、迫りくる高速の右脚を、両手をクロスしてガードする。
 ガードは十分のはずだった。そのはずなのに、そのガードを突破して衝撃が身体に響く。ガードに使った腕はびりびりと痛みを訴え、身体は慣性に従って地面に倒れこんでしまった。
「がはっ!」
 背中を下にして仰向けに倒れてしまったので、衝撃を緩和しきれず、内臓に重く来る衝撃が背中から伝わってきた。のどの奥が潰れるような感覚と、内臓が動かされるような衝撃に苦悶の声が上がる。
 痛みに神経を費やしていたのが、油断だった。
 気付いたときには、仰向けに倒れているオレの腹の上に明日香がのっていた。
「えっ・・・ちょっ! えっ!?」
 馬乗りの状態で、オレが動けないことをいいことにどこまで暴行を加える気なんだっ!! と疑心暗鬼に陥りながら、どうやってこの状態から脱出するか考えていたオレにとって、その後に明日香がとった行動はまったくもって想定の範囲外のことだった。

 顔に、涙が一粒、零れ落ちた。

 正直に白状しよう。本当に何をしていいのかわからなかった。女の子に泣かれたことなど、小学生以来ないし、たとえ泣いているところを見たことがあってもそれはオレとは関係のないことであるのだから、その対処法などわかるはずもない。
 だいたい、何をしようにも何故泣いているのか、その原因さえわからないのだから、何をどうすればいいのかなんてわかるはずもない。
「――っ」
 明日香の口から嗚咽が漏れる。喉を引きつらせたような声が部屋に小さな声で響く。
 対処に困っているうちに、流れ出る涙は止まらなくなっていく。明日香は、軽く前かがみだった上体を起こすと、顔をぬぐっても出てくる涙をさらにぬぐうと言う行為を繰り返す。
 どうすればいいんだろうか。もしさっき踏んでしまったものがとても大事なものだったんだったら、弁償なんて出来ないだろう。明日香にとってそれがどれだけ大事かはわからないが、泣き出してしまうぐらいには大事なもののはずだ。
 どうにかしなきゃならないと言う気持ちと、どうにもならないと言う気持ちが重なり合って、その二つが心の中でせめぎあう。とりあえず謝ると言う選択肢は、もう既に取っていて、これ以上の謝罪が無意味であることぐらいは、混乱した頭でも考えられる。
 ほんとに。どうすりゃいいんだよ。
 自分が原因なのに、いやだからこそ、どうしたらいいかわからない。
 本当に何もわからなかった。
 だから。
 そのときに伸ばした手は、無意識だったんだろう。
 なにせ、何も考えていなかったんだから。

 泣き崩れる明日香の頬に右手を当てる。
 腹に乗られてるから起きるのはつらいが、とにかくその行為をするために、身体は動いてくれたようだ。
 頬に当てた手のひらに感じたものは、涙で濡れた肌と、体温。
 別に心が通じ合ったとかそんなことは考えていなかった。ただただ、自分の気持ちが伝われば、それで十分だと、そう考えていたような気がした。
 ぽろぽろとこぼれる涙が止まったのに気付いたのは、手を伸ばしてからかなり時間がたってからだった。頬に添えるようにしておいた手は濡れてしまったが、問題などあるものか。
「・・・ごめんな」
 たった一言。その一言は、自然に口から滑り出て、二人に染み渡った。




<第9章>

 自分が何で泣いているのか、それさえわからなかった。
 哀しいからなのか。怒っているからなのか。うれしいからじゃないのは確かだが、それ以上はわからない。
 龍花がチョコレートの入っていた箱を潰していたのを見たときに、心のそこから湧いてきた感情はなんだったのだろう。怒っていたのだろうか。本当に私は怒っていたのだろうか。
 時間をかけて、それこそ、苦手な料理と言うジャンルにまで手を出してまで、苦労して作っていたことを龍花は知らない。隠していたんだし。
 でも、それでも。そのことをまったく知らないで謝るだけの龍花に腹が立った。なんて身勝手なんだろうか。どこまで自分勝手な人間なのだろうか。何も知らないはずの龍花に何を求めてるんだろうか。
 自問自答はさらに心を痛めつけ、涙の量を増やす原因となる。
 泣き顔を龍花に見られているという羞恥心が、涙を拭う手に拍車をかける。
 本当に、いったい私は何をしているんだろうか。
 死にたくなってくる。
 唐突に。
 ふっ、と。
 左の頬に当たる感触に目を開くと、そこには龍花の右手が添えられていた。
 龍花の体温が暖かく感じられ、寒かった心に一瞬にして体温が戻るような気がした。
 その右手は触れているだけなのに何故か体中を包み込んでいるような気がして、その右手は何故か自分を確実に安心させてくれていて、さらに涙が出てしまいそうだった。今度のは確実に嬉し涙だと思う。それ以外に考えられる涙の理由などあるはずがない。
 でも、嬉し涙は流さなかった。これ以上こんな恥ずかしい表情を見せたくなかった。
 そして、
「ごめんな」
 不意に聞こえた龍花の声。
 耳から入ったその声は、脳でとどまることを知らず、体中に染み渡って、沈んでいた心を地の底から引きずりあげてくれた。暗かった目の前も、そのたった一言で明るく見えるようになり、チョコレートのことなど何の問題でもなくなっていた。
 ただ、ここに龍花と一緒にいることがうれしい。
 それだけのこと。一緒にいるというそれだけでうれしいと思える心が、どこまでもうれしいと感じられる。
 頬をさわる龍花の手に、自分の手を重ねる。
 その手をつかんだときに感じた濡れた感触は、自分の涙のはずだった。それでもそんな水分など問題にならないくらいに、龍花の手が熱く感じられた。
 そのことで安心したのか、体の力が抜けて、前に倒れこんでしまう。
 支えようとした両手は龍花の顔の横についてしまい、倒れこんだわけだから、当然顔は向かい合っていて、・・・、
「・・・あ」
「・・・えっと・・・」
 どちらともなく呆けた声が口から漏れる。
 お互いに今どういう状態かわかっているはずなのに、その体勢を崩して、起き上がるという選択肢を最初からなくしたように、みつめ合ってしまっていた。
 顔の距離はもう10センチにも満たないだろう。誰かが後ろからちょっと押すだけで、唇と唇がぶつかりそうで、そのたった10センチは、すぐにでも埋まりそうな脆く儚い距離であった。
 二人とも微動だにせず、聞こえてくるのはお互いの呼吸音のみ。それすらも緊張しきった二人は息を止めていて、聞こえてこない。心臓の音ですら聞こえてきそうな静寂の中で、二人は見つめあったまま動かない。
 何も考えられない。
 さっき泣いていたときとはまた違う混乱が、頭の中でぐるぐる回る。脳内の葛藤は言語化できないような感覚ばかりで、論理的な思考なんてこれっぽっちも出てこない。出てくる言葉は「龍花」とだけ。
 自分でもまったく何を考えていたのかわからない。最近自分の体が意図せず動いてしまうのに多少の不便さは感じていたものの、この時ばかりはそれに助けられたと感じた。

 そうして、明日香は自分を支えている腕を曲げていった。

 腕以外に支えるものがない中で、その支えを曲げるということはそのまま自分の体が下に沈んでいくことを意味する。
 すぐ目の前にある龍花の顔は拒否の表情を浮かべているわけではなく、どちらかといえば困惑のほうが大きそうで、でもそれすら認めてしまっているような、複雑な表情。
 本当にこのまま頭を下ろしてしまっていいのだろうか。頭の中で考えていることは行動と直結しないというなんとも言いがたいむずがゆい感覚に苛まれながら、ふたりの顔はどんどんと近づいていく。
 一瞬一瞬が永遠のように感じられ、
 切り取ったコマのように長く永く、
 自分の意思とは裏腹にそれは続き、
 それでも心の深層では結果を願い、
 叶うはずのなかった予定外の事態、
 それが、今、ここで、起きそうで、

 二人の顔の距離が、もう既にセンチ単位を越え、二人は自然と目を閉じ、心がつながったような感覚に全身を包まれ、それでも神経は顔に集中し、最後の一瞬が今・・・、




<第10章>

「龍花さぁぁぁん」

 ババッ!!
 ズザザッ!!

 一瞬の出来事だった。

 階下から聞こえてきた洸平の声。
 その声は二人の耳にも届き、即座に二人は反応。そこまでの雰囲気が一気に払拭された。
 明日香は龍花の上から飛びのき、龍花は龍花で壁まで後ずさる。
「早くしないと龍花さんのチョコも一緒に湯煎にかけちゃいますがいいですかいいですよねじゃあありがたく混ぜさせてもらいますよー」
 間の抜けた声はビル全体に響くかという声だった。
「・・・」
「・・・」
 やけに気まずい沈黙の後、先に声を出したのは龍花だった。
「いやまああれだ・・・うん。とりあえずさっきのはなかったことということにしておくのが賢明と思うんだがどうする?」
「そうね、それが一番いい案だと思うわ。さっきのはなかったことにしておくべきね。なしよなし。ノーカン無効却下ね」
 二人とも立ち上がって自分の服を正す。
 さっき起こったことは完全に無視するとそういうことに二人の間では決定した。お互いに恥ずかしすぎて目もあわせられない。
「あ、カナ、そういえ・・・」
「トラ、さっき洸平が言って・・・」
 二人同時に話し始めてしまう。どうしてこういうときばっかりこう、気まずいことが起きるのだろうか。
「いやカナが先でいいから・・・」
「そっちこそどうぞ私はいいんで・・・」
 もうなんか泥沼。
「・・・」
「・・・」
 結局二人とも話し始めることが出来ずに、再び気まずい沈黙が訪れる。
 二人で前後に並んでリビングに向かって歩いていく。廊下を渡り、原因となった明日香の部屋の前を通り過ぎ、そして階段へ。
 明日香を下にして降りていく。二人とも何も喋らなかったが明日香がふいに、
「ねえ、トラ」
 そういって振り返らずに下を向いたまま龍花に話しかけた。
「ん? なんだ?」
 唐突な問いかけに若干驚いたが、たいしてその素振りも見せずに龍花は答える。
「さっき、洸平が『龍花さんのチョコも湯煎にかける』ーとか何とか言ってたけど」
 とまったまま一向に動こうとしない明日香を不思議に思いつつも龍花は相槌をうつ。
「え、えっと~、聞きたいことは、まあなんでもないッちゃあなんでもないことなんだけどぉ」
「なんだよまったく、煮えきらねえな」
「えっっっとね・・・いや、そのチョコって誰にもらったのかなあ・・・なんて・・・」
 顔を見せない明日香がどういう表情をしているかなんてわかりッこないが、それでも何か、戸惑いのような感情を感じた。まあだからといって詮索するほど今の龍花には元気はない。
「ああ、あれか? あれはクラスの学級委員長が全員にあげてたうちのひとつだよ。なんかよくわからんがいつの間にか洸平にとられててな、まあ、盗まれたやつがやつだけに、捕まえなきゃ行かないような気持ちになって追いかけてたら、あのざまだ。」
「そう・・・なの」
「ん? それがどうかしたのか?」
 うつむいて自分の世界に入っていきそうになっていた明日香を、龍花はひきとめ、問う。
「いや、ううん、なんでもないわ」
「そうか、まあならいいんだが・・・」
「ただ、」
「ん?」
 そこで、彼女は振り向いた。その顔に浮かんでいたのは笑み。今までのことなど全て忘れてしまったかのようなまっさらな笑み。
「・・・ただ、さっきあんたが潰したのがチョコだった事を思い出してただけ。吹っ切れたからもういいわ。どうせ失敗したやつだし」
「え、ってあれ明日香の手作りだったのか!?」
 軽く驚いた表情を作った龍花に対して、明日香は猛反発する。
「ちょっ、何よ! そんなに驚くことでもないじゃない! 私だって料理のひとつやふたつ出来るんだからね!」
「あー、いや、まあ、そこは敢えて否定しないで置いてやる」
 そうとだけ言い、龍花は狭い階段をで明日香を追い越し、先に歩き始める。さっきまでとは逆、位置的には龍花が下にいることになっている。。そして二人は、歩きながら、リビングに向かいながら、いつものとおり戯言を繰り返す。いつものように、問題はなかったかのように。
「あっ、この! 何考えてんのよ! 変なこと考えてんじゃないわよ」
「別にー、たいしたことなんて考えてねーよー」
「その最後の伸ばし棒が怪しいのよ! 白状しなさい、今すぐ」
「嫌だといったら?」
「コロス」
「じゃあ逃げる」
「あっ! だから待ちなさいってば!!」
「追いかけるの禁止ーっ!」
「うるさいわね! ぶっ飛ばすわよ!!」
「飛ばすの禁止ー!」
「この腐れトラがああああああ!」

 いつものとおりの退屈な日常と、楽しい日常が復活し、お祭り気分はどこかに捨て去り、いつもどおりの追いかけっこは、まだ終わりそうにない。




<終章>

「で、結局誰にあげようとしてたんだ?」
「そんなの聞くのは無粋ってやつじゃない?」
「確かにな。あ、そうだ。作り直すの手伝ってやろうか?」
「いいわよ。自分で作るから意味があるんでしょ」
「別に手伝うだけさ。おいしく作れた方がいいに決まってるだろ?」
「でも・・・心がこもってる方が・・・」
「心とか言ったって、美味いほうがもらったやつもうれしいだろ。誰かに教えてもらったって、そんなもんノーカウントだ。誰だって教わらなきゃ出来ねえんだから」
「トラは・・・、貰うとしたらどっちがいいの?」
「手伝ってもらって美味いのと、一人で作って不味い・・・いや普通のってことか? 当然美味い方に決まってんだろ」
「だったら、手伝ってくれてもいいけど?」
「いきなりえらそうだなオイ。まあいいや。存分にて手伝わせてもらうさ。 台無しにした代わりってわけじゃないけどな」
「じゃあ帳消しにしてあげようか」
「ホントか?」
「ウ・ソ。駄目に決まってるでしょ」
「まっ、そうだとは思ってたけどな。存分に美味いやつを作れるように手伝ってやるよ」

 まさかこんな展開になるとは思っても見なかったことが現実となってなんかちょっと焦っちゃってるのが隣にいる龍花にバレてしまいそうでそれは怖いし何よりそんなことはばれて欲しくないからこうやって落ち着いて作っているようにしているはずなのに心臓はバクバクいってるしもうああだめじゃん私。
 今は隣にいる龍花に教わりながらチョコレートを作っている途中。
 隣にいるってだけで十分なのに、おしえてくれるときに両手を握ったりしてくるもんだから、もう表面上を取り繕うので精一杯で、肝心の調理はぜんぜんはかどらず。ほとんど龍花が作ってる状態。こんなんじゃだめだなーとか思いつつ、幸せだからいいやーとも思ってる。
 ホントに、龍花も。
 自分がもらうチョコレートを自分が作るなんて変な話だ。でも、これを箱に包んで渡したら怪しまれるかなあ。どうなんだろう。あーでもこのまま作り終わらなくても・・・。
 明日香は、何度も何度も同じようなことをぐるぐるぐるぐる考え続けている。
 そしてその悩みは解消されることなく、いつの間にか冷蔵庫の中にチョコレートが入り、あとは固めるだけという状態にまでなってしまっていた。
「て、手伝ってくれてありがとう・・・じゃなかった、弁償はもうすんだので、行ってよし。ここからはぷらいばしーの侵害だからね!」
「ははっ、手厳しいな。ところで、何個も作ってたが、誰にあげるんだ?」
「それがプライバシーって言ってんの。さっさと出てくはいはいはいはい」
「わかったよ。わかったから押すなって、じゃあがんばれよ。うじうじ悩んだりしないで一気に渡しちまえ・・・ってカナだったら悩むなんてそんなことないわな。まあ、がんばれ」
「な、ん、か、むかつくけど・・・まぁいいわ。じゃあ全部準備が終わって私が隠すまでここに入らないでよね!」
「わかってるって」

 それからしたことといえば、出来上がったチョコを紙でくるんで、渡せるようにして、名前は書かずに巾着袋のようにまとめて二つ作って・・・。

 ひとつは洸平に。
「明日香さん、どうももありがとうございます。まあ僕は今日までにかなりの量をもらっていますが、そんなたくさんのチョコにも負けず劣らず十分おいしいですよ。ばっちりです。え? 何で今食べてるかって? それは明日香さんがてべて欲しそうな顔をしていたからに決まってるじゃないですか。いまさらそんなこと聞くまでもないでしょう? あなたは僕にプレゼントをくれた。ということはお返しをしなければなりませんね。何がいいですか? やはりここはチョコレートの恩はチョコレートで返すのが礼儀なのでしょうか? やはりそこのところが気になりますが、問題なのは気持ちのはずなですので、大丈夫かと思いますよ? 安心すればいいと思います。え、それでも足りない? その場合はまずですね―――ー」
 まあたまには長話に付き合ってあげてもいいかもしれない。

 ひとつは所長に。
「明日香か。なんだこれは? チョコか。 まあぃぃ。感謝する。」
 洸平との対照的な無表情な反応にすこし肩透かしを食らったが、まあ渡せたからいいだろう。

 そして・・・、
 



<終章・2>

 2月25日。今日も言い天気だ。
 朝っぱらから日差しが照りつけるが、夏とは違って冬はそれくらいじゃ身体は熱を帯びない。
 とりあえず軽く身体をほぐして、いつもどおりに仕事をして、いつもどおりに食事の支度をしようと台所まできたのだが、意外なものがあった。
 机の上においてあったのはサランラップをかけられた、チョコレートだった。
 昨日今日で思い当たる人物は一人しかいない。それにチョコレートの近くに、なにかのメモ帳をちぎったような紙が置いてあり、そこに書いてあることは
『手伝ってくれてありがと。まあ苦労代ぐらいは出してあげなくもないわよ。味わって食べなさい!』
 ああ、言われなくても味わってやるさ。せっかくお前がつくったもんなんだからな。無駄にしたらもったいなくてしかたない。

 チョコは、自分の作ったチョコとはまた違う味がした。
 明日香が作ったんだなあとしみじみ思いながら、口の中でチョコがとろける。








 それが。
 とある事務所の、とあるバレンタインの一日だった。



 ホワイトデーには何を返してやろうかな。と龍花は思った。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2006/08/15(火) 23:36:54|
  2. 創作小説
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<学校を出よう! 2 | ホーム | 学校を出よう! 1>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://okiyama.blog19.fc2.com/tb.php/574-db5e79c2
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。