電撃文庫と堕落生活*でんだら*

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【くるこい】第12話 決められない

  第12章

 結局のところ、何も決められなかった自分がとても情けなかった。
 それでも時間は回り、日付は変わる。
 日曜日の遊園地から二日経った火曜日。
 昨日のことを何一つ解決しないまま、今日も今日とて今日が始まる。  

   ■

「おはよ」
 通学路で待っていた逢坂に声をかける。
「おはよ、こーくん」
 返事はとても楽しそうに。二人が並んだ段階で、逢坂が手を伸ばしてくる。その手をみやり、そして逢坂の笑顔を見て、その手に指を絡ませた。
 辺りを見回しても春名はいない。今朝、家にも来なかった。
 まだ相変わらず元気がないのかなぁと頭で考え、口はそれを悟られないようにと言葉を紡ぐ。
「昨日は先に帰って何してたの?」
 昨日のことをどう思ってるのか、ジャブのつもりで言ってみた。
「こーくんとのキスをずっと思い出してた」
 よけられるどころか、ストレートをくらった。むしろアッパーに近い。
「ああ、そうだったんだ。というか何で帰ったの?」
「だって……、こーくんに恥ずかしい顔見せたくなかったんだもん」
 俺の理想としては、昨日のことはちょっとした間違いで、俺も逢坂も忘れようとしてるんだけど、それでもうっかり口が滑っちゃったりしてその拍子に顔が赤くなる。みたいな展開を希望していたんだが、さすがにそんなに都合のいい展開にはならないか。
 先送りにした結論を、頭の中で転がしながら、逢坂のとの距離感をつかもうと努力する。
「そんな顔だったら、見てやりたかったよ」
 もしも、逢坂を選ばないんだったら、この時点で、この先を予感させる発言はしてはいけない。たとえ誰を選ぶにしても、誰かを裏切る真似だけは絶対にしたくなかった。
「もう、こーくんったら」
 繋いでる、というより絡んでいるといったほうが的確か。絡んでいる手とは逆の手で、ぺちぺちと叩いて恥ずかしいそぶりを見せる逢坂。照れ隠しにも見えるか。
 そのあとは二人とも何も話さずに学校まで行った。
 なにも話さないと言うのは、辛い沈黙だけじゃなくて、先が楽しみな沈黙もあるんだなぁと感じた。会話が無かっただけで、逢坂は終始ご機嫌な様子で両手を振り、それにつられて俺の絡めているほうの手も大きく振られたり、鼻歌をずっと歌ってたりした。鼻歌の原曲は俺がまったく聞いたこと無いのを考えると、多分オリジナルとかそんなところだろう。
 そして。
 それと同時に俺は春名のいない登校風景と言うのを久しぶりに見た気がした。
 心の隅で、寂しさがうずいた。

   ■

 学校についても逢坂はその手を離さず、バカップルっぷりを周囲に振りまくことと相成った。
 その状態のまま教室まで行き、さすがに席までは一緒に手を繋いでいられないので、座るときに名残惜しそうに手を離した。
 前の席の会華がまだ登校してないのを見つつ、座る。
「まるでバカップルですな少佐」
「誰が少佐だ。誰が」
 俺と逢坂の二人が席に着いたのを見計らって、来栖美樹こと委員長が声をかけてきた。ん? 委員長こと来栖美樹か。いや、どっちでもいいか。
「高坂はホントに人気者だねぇ。うらやましいよ」
「まぁそうらしいね。あと俺と会話するときは気をつけたほうがいいよ」
 昨日の約束は果たして有効かどうかはわからないが、とりあえず忠告。ついでに横目で逢坂を見ると、あまり良い顔はしてなかったが、それでもまだ機嫌が悪くなってるわけではなかった。うむ。友人補正とかそういうやつかな。
「なにそれ? 俺に触れると怪我するぜ。とかそんな感じ?」
「そうそんな感じ。ただし怪我させるのはバカップルの片割れだけど」
「って言っても、愛の反応が今までと大して変わってるわけじゃ無いとあたしは思うけど?」
 周囲から見るとそう見えるのか。まぁ確かに昨日の約束は俺と逢坂と先輩以外知るはずもないし、だとしたら今までと同じように見えるのもわかる。まぁ逢坂は告白したその日から、ずっとあんな感じだった気もするし。確定でいえないのは、距離が近すぎて周りからの視点で見た事が無いからだと思う。
「まぁ傍目から見たらそうかもしれないな」
「おっこれは昨日何かあったのか? とうとう一線を越えてしまったか」
「まだだな」
「なんだつまんない」
「なんだそれ」
 他人のことを娯楽としか見てないのかお前は。とマジツッコミしてやろうかと思ったが、別にそんな気分じゃなかったのでスルー。
 さっきからちらちらと逢坂を見ているが、相変わらず額に皺を寄せるほどではないが若干微妙な顔をしていた。うん。この辺が潮時か。
「はいはい。質問会はこれで終了。もう朝のホームルーム始まるから自分の席に着きなさい」
「じゃあここに座ってるわ」
 といって会華の席に座る来栖。
「そういえば、会華今日もきてないな。何か知らないか委員長?」
「その委員長なら何でも知ってる、みたいな先入観やめようよ。あたしが会華の居るところなんて知ってるはず無いじゃん」
「それもそうだな。まぁ会華が来るかもしれないのでその席をあけて置くように」
「はーい」
 口を尖らせて言われても困る。
 来栖が会華の席を立ったタイミングで担任が部屋に入ってきた。
 さて。
 一晩かけて決まらなかった結論を、授業中にも考えてみますかね。

   ■

 といっても、ほとんど一晩かけて考えただけあって、睡眠時間もいつもより少なめになっていたので、ちょっと休憩をかねてうつぶせになったら本格的に寝てしまった。
 教師は自分の職務を全うすればいいという人たちばかりなので、おこされないまま授業終了まで寝てしまった。 
「ふああぁ」
 あいかわらず例の法則は生きているらしく、目が覚めたのは授業終了の数分前というナイスなタイミング。眠気を少しずつ取り払い、しっかり覚醒した頃にちょうどチャイムが鳴った。
 授業中に睡眠に落ちる前に考えていたことは春名の事。
 逢坂を選ぶにしても、そのまえに春名の顔を見ておきたいと思った。なんというか、春名が万全の状態じゃない時に、こういう大事なことを決めるのは良くないと思っただけだ。いかにも偽善者らしい考えだが、自分の気持ちがどこにあるかわからないよーと嘆く中二病の俺にはちょうどいい思考回路だ。
 授業の終わりのチャイムと同時に立ち上がり、春名の教室に行こうとする。
「こーくんどこ行くの?」
「休憩時間の生理現象」
「嘘」
 一発で看破されてしまった。
「こーくん昨日そう言って帰ってこなかったもん」
 そうでした……。それで部室まで探しに来てあんなことになってしまったんだったな。
「わかった。じゃあ一緒に行こう」
 ここで無理やり置いていくのも、また後々どうなるかわからないので、一緒に春名のところに連れて行くことにする。まぁ、春名とは今までずっと一緒にいた仲だ。ずっとといいつつ一週間ぐらいだけど。とりあえずそこまで危険なことにはならないと楽観視。むしろ、逢坂を見て春名が怒り出してくれたらそれはそれでいいのかもしれない。
 てくてくと歩いていく。
 まだ目的地は告げてないが、1年生の教室へ向かってることがわかると、逢坂も何かを察したらしい。少し苦い顔になった。
 その顔の理由は多分、逢坂を置いて春名に会おうとしていた俺に向けた怒りだろうから、それについては聞いたりしないでおく。
 すぐに春名の教室までたどり着き、ドアを開ける。
 一学年違うだけで空気が違うように感じるのは、やはり見知った顔が一人も居ないからだろうか。まぁ高校の一年違いなんてたいした年の差じゃないので、まったく知らない同学年のクラスに行った時も同じ感じなのかなーと、自分のクラスからなかなかでない引きこもり学生は考えながら、近くの少女に聞く。
「ごめんちょっといい? 桜見春名さんよんでもらっていい?」
 すぐ横に居る嫉妬で睨んでいる逢坂と、社交用の笑みを浮かべた俺の二人を見て、何もなかったかのようにその女の子は春名を呼ぶ。
「桜見さーん、2年生の先輩が呼んでるよー」
 声の向くほうを見ると、昨日と同じ席に座ってる春名を見つけた。当たり前か。
 でも俺には来栖みたくでっかい声で呼ぶだけの度胸は無いので、別に気にしない。
「愛。そんなに睨んでやるなよ」
 俺が話しかけた女子を、隣で睨んでいた逢坂に小声で話しかける。
「だって……」
「だってじゃないって、そこまで神経質になってると疲れるぞ」
 そこまで言って、逢坂が反論しようとした頃に春名が到着したので、その言葉は逢坂の口の中でとどまることになった。
「どーしたの? おにーちゃん」
 明るくしようと努めてるんだろうが、声に含まれる不安の成分はぬぐわれることは無い。
「いや、なんか心配になってな。今朝一緒に登校しなかったから春名の顔が見たかったんだよ」
 そこまで言い、逢坂の顔を見る。嫉妬してるか、怒ってるか。
 しかし予想に反して逢坂の顔はそのどちらでもなかった。顔に貼り付けられた表情は、嫉妬というよりも、無関心。いや、それよりも的確に表現するならば、侮蔑の視線。
 下を向いている春名はその視線に気づくことも無い。
「ありがと。でもボクは大丈夫だよ。だから心配しないでいいから……」
 再び逢坂を見るが、その表情は先ほどとなんら変化は無い。
「じゃあ、またね」
 うつむき加減のまま教室に戻ろうとする春名。引きとめようとしたが、それも憚られて。
「電話。話したくなったらいつでも来いよ」
 振り返って、驚いた顔をして、小さくうなずいてまた行ってしまった。
 春名が席に着くまで見続け、こっちを見てないことを見てからドアを閉めた。
「愛」
「…………」
 無言。その顔は落胆しているようにも怒っているようにも見えた。
 どちらにせよ、教室に戻るまで、二人の間に会話は生まれなかった。
  1. 1990/01/04(木) 02:12:00|
  2. 創作小説
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