電撃文庫と堕落生活*でんだら*

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【くるこい】第7話 遊園地2

第7話

「やあ鉱。おはよう」
「おはようございます先輩」
 日曜日。
 もう何がなんだか分からないまま日曜日になってしまった。
 それもこれも綾香先輩が悪いんだ。俺は悪くない。というより最近俺の意志が全く持って無視されてる気がするのはどうなんだろうか。そんなのが日常茶飯事になってきてるあたり、駄目駄目な気がする。
「こーくん! 綾香さん見てデレデレしないで!」
「おにーちゃんこっち向いてほらこっちだよ!!」
 両手を二人に掴まれて、なんともラブラブなカップルですね。自分を傍観する立場から見ると、自分自身に殺意を芽生えるほどの状況だ。だからといってそれが当事者にとって幸福かどうかは当事者にしか分からないとはよく言ったものだ。
 最近この方法で何回現実逃避したか覚えていない。
「鉱。いいじゃないかモテモテだな」
 先輩は言葉どおり、男装してきた。と言っても服装がそれっぽいだけで、スカートをはいてないのはいつものことだし、アクセサリーが男っぽくて、サングラスをかけて帽子をかぶってるだけ。
 ボーイッシュって言えばそれだけのような服装をしてた。いやそれでも、相変わらず自己主張の激しい胸はそのままだし、むしろ軽装っぽいだけいつもよりさらに強調されて色っぽさが出てる。
 どうみても男として振舞う気ゼロの服だよなぁ。
 それでも言動が言動なので、女としてのしおらしさとかそういうのはなかなか感じられない。まぁこれもいつものことだが。
「先輩。うらやましいですか?」
「ああ、とてもうらやましいぞ? 特にその脇の二人が」
 話に呼ばれた二人は、それでも先輩のことは見向きもせずに、俺の手にすがり付いてくる。
 綾香先輩とは対照的に、春名の服は、それこそ子供のようなフリフリのワンピース。水色をベースにしたそれは、幼さを残す体型にぴったり当てはまっていて……。というか見た目完全に中学生を通り越して小学校高学年に見えてくるからやばい。これはもう既にロリコンと呼ばれてもおかしくないレベルだと思う。もうちょっと成長してもいいのに、身長も胸もまだ中学生になりきれていない。お前は高校生だろ……。
 逆の手に絡んでいる逢坂は、こっちは一転して大人びた服。いやそれでも全身黒ばっかっていうのは流石にセンスがどうのこうのよりもなんか違う気がする。ゴスロリ? いやいや。なんかホントによくわからない。スカートは真っ黒のロングスカート。黒のシャツに、黒のカーディガンって……葬式にでもいくつもりか? と問いたくなるほど。ただ、逢坂の雰囲気と合ってるので気にならないのが救いか。
 しかして。
 男一人女三人(一人は男のつもり)のダブルデートが始まった。

   ■

 それにしてもダブルデートってのは、カップル二組が、同時にデートするっていうのが通常の状態のはずだと思ったんだが、この状況はなんだろうか。
 もし、綾香先輩が男役をやってくれるなら、それはそれでいいと思うけど、先輩とくっつくのはどっちだろうかとか考えて、どっちもありえないんだから意味無いじゃん。
 っていうのはもう分かりきってたはずなのに、先輩が着いてきた理由ってのは何だろう? 単純に一緒に遊びたかっただけなのかなぁ。いやいや、綾香先輩のことだから、『二人に挟まれておろおろしながら必死に頑張ってる鉱が面白そうだったから、見てやろうようと思ったんだよ』とか、しれっと言いそうだ。いやそうに違いないだろ。
 だとしたら、それはそれでいいかな。まぁ見てるだけならいいけど、流石にそこからまたトラブルを起こされちゃたまらないんだが、多分なんとかなるだろう。ポジティブシンキングだ。こういうときこそ前を見ないと、後ろ向きになるべきじゃないな。
 そうそう。これはなんだかんだ言って、結局は俺と春名と逢坂のデートなんだ。そう思ったら気が抜けないな、と改めて気を引き締めて、顔を上げて前を見た。
 空が見えた。白い雲、青い空。そして輝くような太陽。まぶしすぎる日差しが目にしみる。
 直後、視線が急降下し、目の前には地面と、そしてうねるように絡まったレール。
「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
 絶叫系は無理です……。ホントかんべんしてください……。

   ■

「いやーホントに楽しかったなぁ。他の遊園地と比べても、やはり私が設計に携わっているだけあって迫力が違うな」
 楽しそうに喋る綾香先輩。
「え? この遊園地って綾香さんが作ったの?」
 楽しそうに答える逢坂。何でこんなに元気そうなんだろうか。俺は既に死にそうなのに。
「うん、うちの親がここの経営者でね。ただあいつらと来たら、安全性だけを求めて、退屈なものしか作らないから、いっそのことってことで、私がほとんど設計しなおしたんだよ」
 安全性を捨てたら、人として、経営者として駄目だと思う。
「先輩すごーい!!」
 純粋な尊敬のまなざしを浴びせる春名。
「…………はぁ」
 ひとりベンチに腰掛け、ため息をつく。あいつらは、俺のことを気にしてるんだろうか? なんというか、自分のペースを崩さないやつらばっかりなので、俺がなんと言おうと関係ないのかもしれない。
 さっきはさっきで、俺にくっつきまくってたくせに、今はなぜか先輩にひっついて話を聞いている。さっきから聞いてると、なんか綾香先輩はとても大金持ちの人の子供らしい。なんか言い方が安っぽいな。いやまあそのとおりなんだろうけど、端的に言うならお嬢様ってことか。
 いやでも綾香先輩っていままでそんな雰囲気は微塵も感じなかったし、そんなそぶりも見せなかったから、少しびっくりした。
 でもなんか納得できる部分っていうのはあるな、と思い直す。今までのふざけたような態度っていうのは、それをわざと隠してたとも考えられる。まあそこまで言ったら考えすぎか。金持ちを鼻にかけるような真似をしないっていうのもいいところなのかもな。
 と思いつつ、その3人とは一歩はなれて会話を聞いている。
 自分のことを構ってくれないって言うのがなんかちょっと寂しい気分になってきて、先輩の話ばっか聞いてるのがちょっと悔しくなってきた。というかだんだん妬ましく……。
 ってちょっと待てちょっと待て嫉妬? 俺が先輩に嫉妬してるのか? いや違う違う。この感情は嫉妬じゃない。大丈夫だ俺。落ち着け。
「なぁ鉱、大丈夫か?」
 はっと気付いてうつむいていた視線を上げると目の前には綾香先輩の顔があった。
「だっ、大丈夫です!」
「そうか。つまらんな」
「つまらないって何がつまらないんですか!?」
「いやな、今にも吐きそうな顔してたから、吐くのかと思って」
「何でそこまで俺を吐かそうとするんですか!?」
「楽しそうだから」
「っ、あーもう。もういいですよ」
 駄目だこの人と会話してると、自分が遊ばれてるだけに思えてくる。そしてそれが実際にそうだから始末に終えないんだが。
「こーっくん!!」
「うごぁ!?」
 先輩が目の前からいなくなったと思った瞬間逢坂がベンチに座っている俺に向かって突進してきた。
「あーずるーい!! ボクもーッ!!」
「うぐふぅッ!!」
 だからこの展開はもう飽きた! 飽きたからほんとにやめてくださいお願いします!!
「鉱は幸せ者だなぁ」
 ……それはいささか違う気がするのだが。
「じゃあオレもーっ!!」
「がはっ!!」
 ちょっと待て誰だ!? お前は誰だ!? 声は聞き覚えあるのだが頭が回らない。待ってだから3人分の体重は流石にキツイから!!
「誰!? キミは誰!?」
「ちょっと貴方どきなさいよ!」
 ドゴッ、という鈍い音が響いて、俺に掛かる体重が一気に減ったのと同時に、数メートル先まで飛んでいく人間の姿が目に入った。
 復帰した脳で、記憶を探ってみて、誰だか思い出した。
「おぉ君は確か……」
「なんだ、お前か」
「なんだぁ、会華だったんだ」
「なんだ。貴方だったの」
「アレっ? みんなして反応薄くない!?」
 そこにいたのは俺の前の席のやつであり、逢坂の同級生にして、春名と俺の幼馴染の腐れ縁の、四島会華だった。
「あーえーかー、大丈夫かー?」
「大丈夫大丈夫こんなことではへこたれねぇよ?」
 腕まくりして大丈夫大丈夫と唱える会華。
 すぐに名前を思い出せなかったのは、髪型がいつもと全然違ったからだと気付く。
 いつもは肩まであるセミロングの髪をそのままストレートにしてるのだが、今日に限ってはなぜかポニーテールにしている。何か意味があるのだろうか。
「そのポニーは似合ってないからやめたほうがいいと思うぞ」
「マジか? いやぁ、結構気に入ってたんだけどこの髪形」
「似合わない」
「えー」
 まぁそんなことはどうでもいいけどな。
「貴方はもう用済みだから帰ればいいわ」
「会華また今度遊ぼうね。だから今日は帰っていいよ?」
 会話の途中で、脇にいる二人からキツイ言葉を浴びせられ、さらに落ち込み始める会華。まあ自業自得といえば自業自得だからフォローする気にはならない。
 と。
「なぁ四島会華君」
「はぇ?」
 傍観してた綾香先輩が、会華を呼んだ。
「君は確か、鉱の幼馴染だと聞いてるが」
「まぁ幼馴染といわれれば幼馴染だけど?」
「よし。では私と一緒に行こう」
「へ?」
 呆然とする会華。同じようによくわからない展開に呆然とするその他3人。
「じゃあ私と会華くんは積もる話もあるので、ここらでいったん退場させてもらう。ではさらばだ!」
 会華の手をもって引き摺りながら去っていく先輩。
 余りの唐突さに数秒間固まっていた俺と春名と逢坂だったが、結局、最初の予定に戻ったことに気付き、何も無かったことにしようと、無言のうちに意見がまとまった。

   ■

「結局あれはなんだったんだろうなー」
 例の騒動の後、なんとなくアトラクションに乗る気になれず、売店でアイスを買って食べることにした。夏休みが終わって2学期になったばかりなので、太陽の熱気はまだ少し残ってて、アイスクリームも普通においしい季節だ。春名はバニラ。逢坂はチョコレート。俺はといえばミックスを頼んだ。ミックスがあって本当に良かったと思った。
「ほら、おにーちゃん。女の子と話してるのに別の女の子と考えてちゃ駄目でしょ」
「あー、まあそうだな。悪かったよ。」
「こーくんは私だけを見てればいいの」
「おにーちゃんは今ボクと話をしてるの!!」
「そんなの関係ない。私がいるんだからこーくんは私と話すべき」
「なにおー!」
「二人とも、けんかしてるとアイスこぼれるぞ」
「うわっ、ホントだ! 溶けてるっ」
「無駄なことしてるからよ……」
 春名のアイスが溶けて、手に垂れる。それを舐め取ろうとして舌をのばしてぺちゃぺちゃやってる様子がなんともほほえましい。あと食べ切れなくて唇の脇からはみ出てきた白いアイスがたらーっとたれて、それはまた絶妙なエロスを……、
「こーくん何見てるの?」
「はっ!?」
 いけないいけない。余りにも春名のアイスクリームを食べる姿が素晴らしかったために、見とれてしまっていたらしい。まったく、はたから見たら完全に変態だったな。危ない危ない。
「そんなことより、一緒にめりーごーらんど乗ろうよこーくん」
「ん、まぁメリーゴーランドならいいか。そんな激しい乗り物じゃないし」
「春名ものるのるー!」
「私が先に言ったの!」
「あーもー!! いいから二人で乗ればいいだろ! な?」
 またややこしくなる前に、二人をさえぎって解決案を提示する。争ってる二人を見てると、なんだか自分が必要とされてるって感じられるから結構気分はいいんだけど、時間もそこまであるわけじゃないし、そろそろ俺も遊びたいナーって思ってきたから、頑張ってみた。
 少しむくれた顔をする春名と、無言のままメリーゴーランドのほうに向かう逢坂。
 うん。
 まあとりあえずは良かったと思う。

   ■

 当然ながら、メリーゴーランドは馬と馬車があって、やはり乗るとなるならば馬に乗りたいわけで、そしてさらに当然ながら、馬は2人乗りだった。
「ちょっと逢坂、押すな!! 前から押すな!!もうちょっとしっかり捕まってくれ!!」
「私は押してない。体が勝手に後ろに行っちゃうだけ。あとちゃんと愛って呼んでよ」
「アイ!! これ以上押すとボクが落ちちゃうからもうちょっと前に行ってよ」
「……落ちちゃえ」
「こら、愛! そこでぼそっと危ないことを呟かない!!」
「ごめんなさい……」
「わかったんならいいからもうちょっと前に行ってくれ! 落ちる! むしろ俺も落ちる!!」
「え、あっごめんなさい! 今引っ張り上げるから待っててこーくん!」
「へ、ひゃはははっは、ちょ、わきの下持たないでちょっと! 待って待ってもう少し普通に持ち上げて頼むからっひゃははは!」
「ああああああああ、落ちる!! ボクの体が宙に浮いてるっ! 助けて! おにーちゃん助けて!!」
「愛、いいから春名を助けてやってくれっ!」
「やだ」
「愛っ!!」
「うわーおちるー!!」
「あっ春名やめてっ服掴まないでよっ!! ああっ」
 ぐわんぐわん揺れるメリーゴーランドの上は、もう不安定どころじゃなくて、2人のところを無理矢理3人で乗っただけあって危険というかなんというか。危険なのはメリーゴーランドじゃなくて、俺たちなんだろうけど、どっちが危険とかもうそんなのどうでもよくなるほどに、よくわからないぐらいに大変だった。

   ■

 5分ほどの死闘と言っても遜色ない激しい戦いの後、ベンチに座った俺たち3人を先輩が見たら、それはもうずっと吹き出して転げまわるほどにひどい状況だった。
「ハァ……、はぁ。愛。少しは反省したか?」
「うん……。ごめんなさい」
「そして大丈夫か春名……」
「……ぎりぎり」
「そうか……」
 しばらく無言。
 誰も喋らずに時間だけがゆっくりとすぎていく。
 なんか、さっきジェットコースターに乗ったときより疲れた気がするのは気のせいだろう。気のせいだったらイイナ。
 疲れて、ベンチに体を倒すと空が見えた。
 赤く色づき始めた木の隙間から見える空は太陽の光を受けて、すばらしく青く光って見えた。
「あー、なんか眠いな」
 ふっと呟いて、二人を見ると、二人分の寝息が聞こえてきた。
「なんだ、寝ちまったのか」
 右に春名。左に逢坂がよりかかって、体重をかけて寝てる。頭を撫でても規則正しく胸が上下してるところを見ると、よほど疲れていたのだろう。ぐっすり寝ていた。
 まだ寒さを感じる季節じゃなくてよかったと思いつつ、自分も目を閉じて、寝てしまった。
  1. 1990/01/04(木) 02:07:00|
  2. 創作小説
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