電撃文庫と堕落生活*でんだら*

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【くるこい】第6話 遊園地

第6話


 空気が、凍った。
 1秒2秒3秒4秒5秒。
 たっぷり5秒数えた挙句、もう一回1から5まで数えるだけの沈黙を破ったのは、先輩の一言だった。
「よう、鉱。興奮したか?」
 脇に春名と逢坂がいて、二人が俺をめぐって何かしてるってのを知ってて、そして二人がかなり過激なのも多分知ってて、それでいてそのタイミングでそのセリフですか……。
 ずずずいっと、左側から春名。右側から逢坂。こんなときだけ妙にシンクロした動きで詰め寄ってくる。
「こーくんこーくんあの綺麗な女の人は誰かな? 事と次第によっては制裁もやむをえないと思うんだけど」
「おにーちゃおにーちゃ! おにーちゃは年上が好みなの? 春名じゃだめなの? そんなことより二股!? なんとか言ってよおにーちゃん!!」
 さーって。どうしたもんか。
 助けを求めようにも半裸の綾香先輩は笑ってるから当然助けてくれるわけもないし、だからといってほかに頼れそうな人も近くにいないし。……というか近くに人がいたらそれはそれでだいぶ危ないことになってると思うのな。
 とにかく、まずはこの場の収集つけねばならないと、直感が危険信号をビンビンに発揮していた。危機回避アビリティはまだそこまで高くないので是が非でも逃げたいところです。
 というよりそろそろ先輩服着てください。言いたいけどこの状況ではうかつにしゃべることもままならないので言えないのが悲しすぎる。せめて二人のうち一人でいいから先輩のほうに行ってくれないものかね。……無理だろうけど。
「モテモテだな、鉱。正直うらやましいくらいだぞ」
「そんなこといってる暇があったら誤解とくの手伝ってください!!」
 そんな俺のセリフなんておかまいなしで鼻歌を歌いながら何事もなかったかのように服を着ていく綾香先輩。よかった……。このまま下着まで脱ぎ始めてたらどんなことになっていたやら。先輩の性格からして、そんなことは無いと言い切れないのが怖い。
「ところでこーくん。あの現地妻みたいな女の人は誰?」
 現地妻て……。
「彼女は西園綾香先輩。茶道部の部長。俺の先輩。はい説明終了」
「肉体関係はどこまでいってたの?」
 春名よ。言いたいことはわかるが、直球過ぎるぞ。
「キスまでなら半殺しで許してあげる」
 うん。愛情の裏返しと考えよう。ポジティブに前向きに考えるべきだな。うん。女の嫉妬心ほど怖いものは無いってどこかで聞いたことがあるけど、うん。もうなんでもいいや。誤解を解けば問題は無いでしょう。そのはずだ。
「鉱とは、昨日もここで寝たほどの仲だぞ」
「先輩っ!! 言葉的には合ってるけどその言い方は誤解招きすぎ!! だからややこしくしないでくださいまじめに! 本気で!!」
 ちょっとまってちょっとまって、後ろから殺気が凄まじいんですが。背筋が凍るってこういう事を言うんだろうか。脚を動かそうにもなぜか固まって動けない。
 ゆっくり。それはもうゆっくりゆっくり振り返る。オーラとか死の気配とかそんな言葉をリアルに信じそうになるくらいの威圧感を感じながら、それでも義務感というかもうここで振り向かないで逃げられたらそうしたいけど、そんなことをさせてくれる段階は既にとっくの昔に過ぎている。恐怖に負けないように、少しずつ、振り返るとそこには。
 鬼が二人いた。
「こーくん。私というものがありながら……」
「おにーちゃんは一度、ボクとちゃんと話し合わないとダメみたいだね……」
 小さいはずの春名にさえ恐怖を感じてしまうほどの威圧感。
「えーっと、これは誤解であって……」
『問答無用っ!』
 弁明は一切認められず、10分にわたり、殴る蹴るなどの暴行を受けた俺は、茶道部部室に横たわることとなった。
 なんとか頭部だけは守ろうと、手で覆っていたのだが、その隙間から見える先輩は大爆笑してた。
 ちくしょう……。目から汗が出てきたけど、多分気のせいだ。……そうだったらいいな。

   ■

「綾香先輩って綺麗ですね」
「ほんとにー。お肌すべすべー」
「そんなことないさ。3年の中でももっと綺麗なモデルみたいな奴だっているしな」
「でも先輩が綺麗なことには変わりないですよー」
 なんであの3人は普通に仲良くなってるんだ……?
 茶道部部室の部屋の隅に追いやられた俺は、一人さびしく自分で入れたお茶を飲んでいた。とてもおいしいとは言えない出来だが、あれだけいじめられた後なんだからおいしく飲めるはずが無い。軽く涙目だ。
「ほら、鉱もそんなうじうじしてないでこっち来いよ」
「いいんです。俺はここにいますから先輩はそこで愛と春名と遊んでてください」
「そんないじけるなよ、今回は私が悪かったから。、っち来て一緒に和菓子食べよう」
「うー」
 先輩の目に反省の色は見えないけど、いつまでもこうしててもしょうがないので誘いにのることにする。別に和菓子に釣られたわけじゃない。
 全力で暴行を受けている最中に、綾香先輩が助けてくれなかったらオレはどうなってたことか分からなかったが、その原因を作ったのも先輩なわけで、それもあわせて考えるとなんだかありがたく感じられるはずもなく……。
 というかそれよりも、なんであの二人はあそこまで先輩と仲良さ下にしてるのかが分からないのだが、そこのところは女子どうしで何かあるのだろうか。俺には理解できないのが残念だ。理解したいとも思わないが。
「こーくん? 今回は西園先輩に免じて許してあげるけど、次は無いからね?」
「そーだぞおにーちゃ。ボクだっておにーちゃが浮気してるのを許す気なんてないんだから」
 幾分か和らいだが、二人に責められてる状況は変わらず、別に俺はマゾヒストじゃないので、そんなことに快感を覚えるはずも無いので、そろそろ安心して過ごせる場所が欲しいです。
 そういえば、最後の砦だったここももう陥落したか……。次はあれか? 屋上とかそういうところに行くしかないのか? でもいなくなったらいなくなったで逢坂なんか俺を探して校内中を探し回るだろうかやっぱりできないよなー。
 と一通り現実逃避して、無理だと悟ってまた涙目。俺の平和な日常は何処にいったんだろうか。
「そういえば、遊園地の件はどうなったんだ?」
「え? おにーちゃん何それ?」
 そして相変わらず地雷を爆発させるのが上手い綾香先輩。的確すぎて泣けてくる。
「あれ? そういえば、何で先輩はそのことを知ってるんですか?」
 無理矢理話をずらしてみる。無意味だろうけど。来栖と逢坂しかその事実は知らないはずなのに。バラすといっても、逢坂はありえないから、結局来栖から聞いたんだろう。
「美樹から教えてもらったんだよ」
「先輩と委員長って知り合いだったんですか?」
「そーれーよーりーもー!! 遊園地ってなーにー!?」
 春名が脇で手をぶんぶん振り回して聞いてきている。その横で逢坂は勝者の微笑み。
「ああ、お前も言ってる通り、アイツは学級委員長だから、生徒会関係でちょっとな」
「そうだったんですか」
「だーかーらー! ゆーえんちー!!」
 先輩の顔が少し曇ったように見えたのは何故だろうか。俺の精神が衰弱していたからだろう。
 それよりも春名を放置していることの方が重大な問題な気がする。ほっといても危ないし、説明しても危ないっていう状況はどうなんだろ。まあそれでも俺にやましいところは無いので先に春名に説明してやることにした。
「春名。遊園地ってのはあれだ。今日委員長に遊園地の招待券というか入場券的なものを3枚ほどもらったので、俺と春名と逢坂で行こうと言うことだったんだがぐふっ!!??」
 春名の拳が鳩尾に突き刺さった。
「ずるい!! なんでそれボクには教えてくれなかったの!! なんでアイだけそのことを知ってるの!? 答えておにーちゃん!!」
 まってください春名さん。ボディブローって地味にきついんですよ。喋れないから。もうちょっと待って揺らさないでお願い吐く吐く!!
「おに~ちゃ~あああん!!」
 ぐらぐらぐらぐら前後に揺らされてちょっときつい。というかちょっとどころじゃなくきついんだがどうにかしてくれ……。
「だからっ! それをさっき言おうとしてたんだよ」
「さっきっていつ!? 何時何分何十秒!? ボクが何回まわったとき!?」
「なんでお前が回るんだよ!!」
「知らないよ!!」
 むしろ俺が何回まわれば気が済むのですか? 既に前後運動ではなく垂直方向に対しての回転運動になってきてる。
「とりあえず落ち着け落ち着くべき落ち着きなさい!! 答えるから手をストップ!!」
「ぐぅ~」
 春名もしぶしぶ、といった感じで両手を降ろした。ホントにありがとう。まだ気持ち悪さは完全には抜けないが。
 先輩も逢坂も見てるだけで何も助けてくれなかったのが恨めしいが、そんなことを気にしてたんじゃこの世の中生き残っていけない。とりあえず春名に説明することにする。
「まあそんな難しいことじゃないって。今日の昼休みに、委員長、来栖美樹から遊園地の招待券をもらったんだ。3枚ほど」
「私とこーくんと私のおかーさんの分ね」
 唐突に喋り出す逢坂。頼むからややこしくしないでくれ。
「という冗談はおいておいて、来栖も俺とお前と逢坂の三人で行って欲しいって言ってたんだよ。なんでアイツがそんなことするか理由は不明だけど」
「美樹は私の親友だから。私を応援してくれてるのよ」
「だから3人でってさっきから何度もいってるじゃん……。で、日曜日に行こうって話しだったんだけど、それがなかなか切り出せなくて、というか全然話すタイミングにならなくて、こうなっちゃったわけだ。わかったか?」
「とゆーことは? 日曜日はボクのおにーちゃんでデート?」
 目をキラキラさせながら言う春名。
「待て、だから3人で行くと何度言えば」
「違うよ春名。私とこーくんがデートするんだよ」
「ボクだもん!!」
「私」
 視線をぶつけ合い火花を散らす二人。おーい、こっちにもどってこーい。
「大変そうだな鉱。見てる分にはおもしろさと嫉妬しか感じないが」
「綾香先輩は何に嫉妬してるんですか」
「もちろん、鉱の心を独り占めしようとしてるあの二人にさ」
 ニヤリ、と口の端を吊り上げた笑顔は、なんだか本当に笑ってるように見えた。
「そんなこと言っても何も出ませんよ。あと、日曜日に遊びに行くとか、噂広めないで下さいよ。めっちゃ困るんですから」
「大丈夫大丈夫。安心してくれ」
「先輩の安心してくれで安心できたためしが無いんですけどね」
 まぁ、綾香先輩のことだから、そこまで行き過ぎたことはしないだろ。アレでも常識はわきまえてる人だ。
「ん? 鉱なんか言ったか? 何か私を侮辱するような言葉が聞こえた気がしたんだが」
「いや。何も言ってないですよ」
 地獄耳にもほどがある。心の声が聞こえるのか? この人は。
 なんにせよ、ここでにらみ合ってる二人をほっておいたら、第三次世界大戦にでも発展しかねないので、引き離しておかなければ。
 そう思って二人を止めようとした瞬間、綾香先輩が言った。
「じゃあれだな。ダブルデートってことにすればいいじゃないのか?」
 先輩の放った一言で、二人の視線がこっちに向いた。
「ダブル……」
「デート……?」
 呟いている二人。
「いやいや先輩ダブルデートってそれ意味全然違う気がするんですが?」
「じゃあ正しい意味とするために、そこにもう一人男が入ればいいんだろう?」
「え?」
 先輩の一言に呆然とする俺と春名と逢坂。
 いやそれはどっちにしろおかしいだろう、とツッコミを入れようと構えたところで、

「私が男装して一緒に行けば何も問題はあるまい」

「…………………………え?」
  1. 1990/01/04(木) 02:06:00|
  2. 創作小説
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