電撃文庫と堕落生活*でんだら*

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【くるこい】第5話 日曜の予定

第5話

「うごふぅっ!!」
 腹に何か重い物体が加速度を持ってぶつかってきたような衝撃の正体は、見なくてもわかる。
「はーるぅーなー」
 のどがつぶれてるのか、まともな声が出ないが、目の前にいた春名にはしっかり意図は伝わったらしい。しかし、それで春名が俺の上から退くかどうかは別問題だが。
「おにーちゃ! もう朝だよー!!」
「春名。こーくんを起こすのは私がやるって言った」
「はやいものがちー!! ひゃっほー!」
 なんというテンションの高さ。俺の上でじたばたするな、腹筋が確実に死んでしまう。
「いーのいーのーボクは妹だからいーのー」
「妹でも兄を殺すのは犯罪になるだろ……とにかく動くな暴れるな!」
 ピタっと、春名は動きを止めた。いや、どけよ。
「春名、どいて! 私が起こすの!!」
 すまん逢坂。もう十分に起きてる。そして揺らすな! せっかくとまったのに!! また春名を動かすと腹がぐりぐりってうごふぅッ!!
「だーめーなーのー! ここは私の特等席!!」
「じゃあ私もこーくんの上にのる」
「ちょっ、愛! やめろそれはちょっといい加減に許容量があああああああああああ」
 男の意地で、吐くのだけはこらえた。
 ……そろそろ意地が張れなくなって来た気がする

   ■

「遊園地に行きたくないかいっ?」
 時間はキングクリムゾンに飛ばされたおかげで既に昼休み。
 ちゃんと二人は節度を守ってくれたおかげで、登校時以外はそれなりにまともにすごすことが出来た。
 で、問題は、目の前に差し出される3枚のチケット。
「委員長。ひとつ聞きたいんだが、なんでこれをくれるんだ? そしてなんで3枚なんだ?」
「質問が二つになってるよ高坂。それじゃあひとつしか教えられないな」
 さてちょっとだけ状況を整理してみよう。
 とりあえず俺は昼休みになったので、とにもかくにも生徒会室に来た。そりゃあもちろん、逢坂のあのテンションをむけられて、教室にいられるほうが不思議でならない。
 逢坂とともに到着すると、既に鍵は開いていて、中で待っていたのが委員長こと来栖美樹だった。で、彼女を完全無視して弁当を食べ始めようとする逢坂を完全無視して、来栖は俺に遊園地のチケットを渡してきたのだった。
 ちなみに春名がいないのは、今朝のうちに昼飯にこっちにきたら一緒に帰ってやらないと、釘を刺しておいたからだ。予防線は張っておくべきだにかぎる。
「なんで3枚かと言うと、君と、逢坂さんと、はるにゃんの3人だからに決まってるじゃないですか社長」
「社長って誰だ社長って」
「高坂に決まってんじゃん。よっ、モテる男はツラいねー」
「むしろなんでこれをくれるかってのを教えてくれると、納得できるのだが」
「残念無念! ひとつしか答えられません!」
「そこに執着しなくてもいいだろ……」
 まぁもらっておいて、いらないってつき返すのもなんだし、もらうにはもらうけど。
「こーくん。一枚捨てちゃおうよ」
 逢坂よ。そこまでストレートに言わなくてもいいんじゃないか? しかもくれた人の目の前で。
「あーいちゃんっ。そんなにはるにゃんのこと嫌うことないじゃない。みんなでいったほうが楽しいよ?」
「でも私はこーくんと二人っきりがいい」
 来栖はちょっと考え込むしぐさをして、逢坂に耳打ちをする。
「だーかーらー……ごにょごにょ……ごにょごにょ」
「でも……それだと……ごにょごにょ」
「ごにょ……それでいいじゃん……」
「……うー美樹がそう言うんだったら……」
 こっちを勢いよく振り返り、
「けってーい!! じゃあ今週の日曜日は3人で遊園地にデートに行くことに決定しましたー! ぱちぱちぱち」
 なんという強引さ。それよりも、今どんな会話が交わされていたかがとても気になる。
「……っつかちょっと待て! 日曜日って明後日じゃないか!?」
「善は急げだよ、ワトソン君」
「誰がワトソンだ誰が」
「じゃあお二人さん! ごゆっくりー!!」
 言うだけ言って、渡すものだけ渡して、来栖はさっさと生徒会室を出て行ってしまった。なんというか台風みたいな奴だな。まぁそう思ったのは今回が初めてじゃないけれど。
「……というわけらしいので逢坂」
「なにこーくん?」
「3人で遊園地に行くことになったから、日曜日予定開けとけよ」
「もしかして春名もいっしょ?」
「春名をいれずに3人というメンバーを俺はなかなか思いつかないのだが……。なんにせよ、委員長にも言われたろ。俺は何言ってるか聞こえなかったけど、そんときちゃんと返事したんだからうそつくなよー」
「うー」
「うなってもダメっ」
 くそぉ! その口をすぼめた顔がまたかわいいなぁ!! もちろん口には出さないけれど。
 人は外見じゃなくて中身だというけれど、やっぱり外見は大事だよなぁ。
「ふぅ」
 知らずため息が出る。なんかまた厄介なことになりそうでとても心配なのだが。
 まぁ何とかなるだろ。
 ポジティブ思考は、どっちかって言うと現実逃避といったほうがいいのかもしれないが、どっちにしろ同じだから大丈夫。結局現実逃避なんだけどな。
 ぼーっとしてると、唇に何かが押し付けられる感触。
「――っ!!」
「こーくんたまご焼き嫌い?」
 一瞬驚いたが、ただ単に逢坂がお弁当のおかずを押し付けてきただけだった。なんというか、切り替えが早いな逢坂。
「いや、ちょっとぼーっとしてただけだ」
「そう。じゃあたっぷり食べてね」
 逢坂が自信満々に差し出した弁当箱には、たまご焼きがぎっしり詰まっていた。半熟の一番おいしいタイミングでちゃんと作ってあるのは、なれた人じゃないと出来ないレベルのしっかりした料理。……違和感があるのは何でだろうか。
「おいしいよ?」
 その言葉はどこまでも信用ゼロだったのだが、流石にそれをそのまま言うわけにも行かず、結局なし崩し的に食べることになってしまった。
 流されやすい自分が恨めしい。
「はい。あーん」
「えーっと、あ、ーん」
 誰もいないから恥ずかしくないはずなのだが、やっぱりやってる行為自体が恥ずかしいので誰もいなくてもどうしようもないって。
 つかそれよりも、この玉子焼きの安全性を調べないと俺の命に関わ……。
「はいっ」
 ぐっ、と押し込まれた玉子焼きが喉にぶつかり、生命の危険から、その食物を噛み砕いてしまった。
 ……。
 ……。
「あれ…………おいし……い?」
「もー、こーくんは素直じゃないんだからー。私の料理がおいしいんだったらそういえばいいのにー」
「うん。これは、うまいわ」
 普通においしかった。なんだこれは。何かの間違いなのか? むしろ昨日の逢坂が間違いだったのか? 昨日の料理はなんだったんだ? と思わせるほど、その玉子焼きはおいしかった。
 意外な一面とでも言うべきか。それとも玉子焼きだけに特化した調理技術なのか。それとも昨日作った夜ご飯のあれだけが特別だったのか? そういえば朝飯は普通だった。父さんが作ったらしいから、当然だろうけど、そのときにまともにこの玉子焼きが出来たということは、逢坂が台所を悲惨な状況に陥れてないということで、つまりまともに作ってた?
 ここまで疑うのは失礼だと思うけど、昨日の料理と、昨日の弁当を考えるとこれだけ警戒してしすぎることはなかったと思うが、それにしても普通にうまいな。
「よかった。こーくんがおいしいって言ってくれて。お母さんに頼んでおいて正解だった」
「ちょっと待て」
 今なんて言った?
「え、あっ、いやっこーくんほら! まだまだいっぱいあるから食べて食べて!!」
「だから今お母さんに頼んだって言っただろ!? さっき自分で作ったって言わなかったか!?」
「お母さんがつくったなんて言ってないよ? ……っじゃなくて、おいしいでしょこーくん私の手料理どう?」
「いまさらごまかしても遅いって!!」
「だって……お義父さんが台所使わせてくれなかったんだもん」
「かわいく言っても変わらないって」
 まぁおいしいから別にいいんだけど。あの料理をまた食べさせられるのは流石に精神的肉体的に限界を超えそうな気配がする。父さんグッジョブ。
「そしてもういちどちょっと待て。さりげなくお義父さん言うな」
「でもこーくんと私は結婚するんでしょ?」
「いやまだそれは決まってないから……」
「すーるーのー!!」
「春名みたいにだだこねてもダメ!!」
 それについては昨日の夜に言ったはずなのだが……。まぁ逢坂のことだから意図的に忘却してる可能性もあるが。
 なんにせよ、まだ決まったわけじゃないんだからその言い方はちょっとなんとかならないもんか。
「でも、こーくんのお父さんは私のお父さんなんだからお義父さんって呼んでもいいんじゃない?」
「確かに発音は同じっぽいけど、それは結婚確定だからちょっと待てって! まだ早いからゆっくり。ゆっくりな?」
「おーとーうーさーんー」
「ゆっくり言えってことじゃねぇ!! お前は小学生か!?」
 なんかいつの間にかコントのようになってる。しかしなんか逢坂のほうはどっちかって言うとまじめにやってるっぽくてなんだかなー。それはそれでいいんだけど、天然パワーのすごさを思い知ったわ。
「はぁ。もういいや義父さんで……。とりあえず昼休みが終わる前に食べ終わろうぜ」
「はい、あーん」
「せめて自分で食わせてくれ……」
 ため息しか出てこない。
 結局。
 弁当の半分を「はいあーん」で食べさせられて、心がバキバキに折れそうになりながらも完食したちょうどその辺で昼休み終了の予鈴が鳴って、回復する暇もなく午後の授業と相成りました。
 誰か俺に休息をください。

   ■

 放課後。
「おにいいいぃぃぃぃぃちゃあああああああああああん!!」
「春名。せめて学校の中では静かにしてくれないか?」
 全速力で走ってきた春名をひらりとかわして、部室に向かう。
「おにいちゃおにいちゃ一緒に帰ろう!! もう今日春名は部活お休みなんだよ!? さぁボクと一緒に帰ろう? 登下校の時はボクと一緒に帰るっておにいちゃん約束してくれたよね!?」
 早口でまくし立てられたけど、今日は部活に行くと決めていたので無理。
「すまんな春名。今日は部活に行かなきゃならない日なんだ。待っててもいいけど先に帰っててもいいぞ?」
 むしろ、さらにすまん春名。ちょっとでいいから休ませてくれ。今の俺の生活の中に、茶道部以外で心休まる場所がないんだ。割と本気で。
「えーっ! 今日は部活休んで春名と一緒にかえろーよー」
「2時間ぐらいかかるから図書館ででも待っててるといいとおもうぞ」
「はーるーなーとーかーえーるーのー」
「子供じゃないんだから駄々をこねるなって」
 春名をなだめながら部室に向かって歩いていく。
「春名。こーくんだって困ってるんだから自分勝手しないで」
 逢坂。助け舟ありがとう。しかしお前が言うとさらに春名がヒートアップしそうなので、ちょと自重してくれるともっと助かるんだが。
「アイは黙ってて! 学校にいる間はアイと一緒にいるんだからずるいっ! はやくいっしょにかえろーよー」
「私も一緒にいたいけど、部活のときはこーくんと一緒じゃないから同じ。むしろその時間を春名に取られるのは許せない。だから先に帰ってよ」
「なにおー!!」
 二人とも。本人不在で話しても意味ないことに気づいてますか? 絶対気づいてないだろうなぁ……。まあ百も承知だけど。
 それでも流石にこの部分は譲れないってのはある。俺もそろそろ休まないと、わりと本気で死ねると思う。 二人と一緒に歩いてるうちにもう茶道部部室の前に来ていた。
「そんなわけで俺は部活してくるので、春名は図書館でも昇降口でもいいから待っててくれ。時間かかるから。ついでに愛はここでさよならか。あんまり春名につっかかるなよ」
 といって、一人部室に入ろうと、ドアを開けた。
 さて。
 ここでひとつ言葉の定義でも考えてみようか。
 『後悔』という言葉がある。そう『後』で『悔』やむと書いて後悔だ。
 後悔先に立たずなんて言葉があるが、後に悔やむから後悔で、先に悔やんだら後悔じゃない。
 さて。
 昨日のことを軽く思い出して、もしかしたら昨日と同じ状況になってるかもしれない。その可能性を思いついたのはすべてドアを開けた『後』だった。
 後悔先に立たず。
 ドアの向こうにいたのは下着姿の綾香先輩だった。
  1. 1990/01/04(木) 02:05:00|
  2. 創作小説
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