電撃文庫と堕落生活*でんだら*

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【くるこい】第4話 添い寝

第4話

 チャイムが鳴ったので、宅配便だろうと見当をつけ、ハンコを持って玄関に行った。しかしドアを開けてみたら、目の前にいるのは女子高生だった。
「どちら様で?」
「こーくんに、こーくんの家に行っててくれって言われたんですが」
「ああ、鉱の友達か。どうぞあがって。名前は?」
「逢坂愛といいます。よろしくお願いします」
 意外と礼儀正しい子だな。
「じゃあ、鉱の部屋は二階だからそこ行って待ってるといいよ」
「あの、こーくんには、お父さんに料理を教えてもらうように言われたんですけど」
「え?」
「ですから、お父さんに料理を習いに来たんです」
「は、はぁ」
 よくわからないが。まぁいいか。
「じゃあとりあえず、あがって待ってて」
 そう言って、俺は台所へ向かう。リビングでちょっと待っててもらおう。
 しばらくして。
「で、どういうことか詳しく教えてくれるとうれしいんだけど」
「ですから。こーくんが、私に夕飯を作っておいてくれと頼んだんです」
「そのときに俺から料理を習えと?」
「こーくんはそう言ってました」
「んー。わかった。じゃあそうするとするか」
 特に問題もないし、まだ作り始めてもいなかったし、他人に料理を教えるのなんて久しぶりだなぁ、と感慨深く思ったりもする。男の料理なので、そこまで繊細な味付けは期待できないぞ、と伝え、初対面の女子高生と料理を作り始めた。
「ん、なにしてるんだ?」
「いえ、マイ包丁を使おうと思って」
「えーっと、わざわざ包丁家から持ってきたの?」
「もしもの時に困るのでいつも持ち歩いてます」
 えーっと、それは銃刀法違反なんじゃないかなぁ……。
「危ないからめったなことが無い限り出しちゃだめだよ。って高校生なんだよな」
「大丈夫ですおじさん。本当に危ないときにしか使いませんから」
 何か会話がずれてる気がする。まぁ俺の知ったことではないな。と責任転嫁に似た思考で適当に流す。
「あと、おじさんって、まぁ確かにおじさんだが……」
 それはそれで少し傷つくが。
「じゃあお父さんのほうがいいですか?」
「んー。おじさんでいいや」
「ではおじさんと呼ばせていただきます」
 どうでもいい会話は、調理開始前の数分だけ。

 さて。そこから先は地獄絵図だったわけだが。

   ■

「ただいまー」
「おじゃまするよー」
 二人して帰ってきた。あれからしばらくたってるので春名の目にうっすら残っていた涙も消えうせ、何も無い普通の状態に。
「あー! こーくんだ! おかえりー!!!」
「あ、こら逢坂さん! 目離さないっ!!」
 親父の声が後ろから聞こえてくるが、そんなのを無視して逢坂は俺の方へと飛びこんできた。
「待てっ!! 春名の体型ならまだ大丈夫だがお前は流石にうぶぉはぁっ!!」
「あー!! アイちゃんだけずるいー! ボクもボクもー!」
「誰か……助けて……」
 唯一助けてくれるかもしれない父親は現在台所で格闘中。どうするんだこれ……。
「あ。そうだ。まだあれ言ってなかった……」
 そう呟くとおもむろに逢坂は立ち上がり、倒れてる俺を見つめてこう言った。
「ごはんにする? お風呂にする? それとも……ア」
「ごはんごはん! ごはんにする! お腹減った俺とてもお腹減ったからごはんな! はいはいそうと決まれば早速リビングにレッツゴー!!」
 上にかぶさってくる春名を無理矢理どけて、リビングまで二人を押して行く。
「あ、こーくんちょっと待っててね!」
 リビングに入る直前、逢坂が俺を止めて、先に中に入っていった。なんだろう。サプライズパーティでもするのか?
 しばらくして、入っていいよーの声。
 さて。どんな料理が待っているんだろうか。
 ドアを開け、一歩足を踏み出した。
 ある意味。サプライズだった。

   ■

 大体において、無理があったことは否めない。
 無理なものは無理だったんだと諦めた。食べるしかないだろ。
「鉱。ちょっとこっちに来い」
 父さんが呼んでいる。顔が引きつってますよ? 父さん。
「あ、春名、愛、もうちょっと待っててくれ」
 二人を残して台所まで行く。
 声を極限まで小さくし、作戦会議。
「なぁ、あの女の子は何なんだ? 逢坂さんだっけか? 彼女は何か特異な能力を持った能力者か?」
「残念なことに彼女はただの人間だ。ちょっとばかり過激だが普通の人間のはずだ。で、何があった? この惨状は何がおきたんだ?」
 周囲を見回すと、焼け焦げた壁。炭の飛び散った跡。黒くなった調理器具。
 普通の状態じゃないことは断言できた。
「なんで彼女は何も無いところから煙を出せるんだ、と俺は問いたい」
 クソ真面目な顔をしてギャグのようなことを言う父さん。しかし現状と、あと昼間の弁当から考えるとありえない話ではないのが怖すぎる。
「そんなこと俺に聞かれても分からん。しかもなんだその特殊能力」
「なんだと言われても困るんだが。とりあえず、なにか調理器具を触らせると片っ端から爆発したり故障したり、果ては溶け出すんだが……あの状態は、料理を教えるとかそういう次元じゃなかった」
「そうか。愛にもそんな力があったのか」
「ただの料理下手なだけなんだろうけどな」
「ねーおにーちゃんー二人で何話してんのー?」
「こーくん、早く来て食べましょうよ」
 二人が呼んでる。
「何はともあれ、目標は完食だからな。がんばれ父さん」
「まて、お前は食べないのか?」
 リビングに行く足を止め、振り返って言う。
「だから、俺が倒れた後は頼むって言ってるんだよ」
 後ろ姿を頼もしく見せてみたが、まぁそんなふうには見えないだろうけど。

   ■

 死体は二つ。
 逢坂と春名と死なずに済んだ。一口食べた俺が、もうこれは無理だと判断して別の料理を適当に作ってやったのだ。ほんとにちょっとしたおかず程度だが、逢坂が関与する余地の無かった白米とそのおかずさえあれば飯はなんとかなったので、犠牲は高坂家の男たちだけで済んだ。
「父さん」
「なんだ、鉱」 
「ごめんなさい」
「……いいさ。それよりもがんばれよ」
「うん……」
 二人して人生を悟ったような発言を繰り返していた。
 その間、逢坂と春名には風呂に入ってもらっている。二人一緒なのは何かと不安だが、二人とも、
「私がいない間にこーくんに何かしないよね?」
「アイこそ、ボクがいない間におにーちゃんをたぶらかそうとするんでしょ?」
 という維持の張り合いが始まり、結局二人で一緒に入ることで納得したらしい。それが納得というかどうかは分からないけどな。
 まぁ、女子が二人で入ってる中に入ってくほど命知らずじゃないので、口を出したりはしなかったが。というかそれ以前の問題として死人に口なしだったのだが。
 さらにそれ以前にまず泊まりにきたわけでもないのになんで風呂入れてんだよって言う言葉が飛んできそうだが、そうでもしないと納得しなかったというか、この後も居座るつもりだったらしいので、とりあえずこの食事という名の地獄の残骸を片付ける時間が欲しかったというのが本音。
 机の上に黒い粉が散乱してるのは、俺と父さんの精神衛生上良くないと判断した。
 一通り片付け終わって、リビングで二人が死んでいる。
 ぼそっと、俺は呟くというよりも、吐き出す感じで呟いた。
「父さん。俺、愛の彼氏になったんだ。ついでに春名の兄になったらしい」
 他人事のように話すが、事実だからしょうがない。
「……そうか。…………ほんとにがんばれよ。あと春名ちゃんに手出したら俺が殺しにかかるからな」
「出さねーよ。だいたいリアル幼馴染には萌えないっていう法則があるんだよ。だから大丈夫だって。とりあえず愛とも付き合ってるわけだし」
「うん。とりあえず高校生なんだから避妊はしとけよ」
「みんな言うこと同じなのな……」
 親一人子一人だと、親子の親密さが違う気がする。まぁ両親がいる家庭で育ったことは無いので分からないが、母さんがいないのは最早自然になってしまっているので、気にならない。
 母さんが死んだのは、俺が3歳ぐらいのときだったらしい。
 死因は交通事故だった。それを知るのは父さんだけだったが、俺が物心ついた頃に母さんについて聞いたときに教えてくれた。夜中、一人で歩いているところを車にひき逃げされ、交通量のそんなに多くないところだったのでそのまま放置されて死亡。
 その頃、父さんは歩道橋から飛び降りた女の人を轢いてしまっていて、その裁判に行っている時だったらしい。悪い偶然もあったもんだ。急いで駆けつけたときには、すでに母さんは死んでいた。
 顔の分からない人間の死など、どうでもいいと最初は思っていたけど、それを語るときの父さんの顔が悲しくて、もらい泣きしてしまった。感情は伝染するんだなぁと、思った。
 それ以前も以降も、母さんの話は父さんは殆どしなかったけど、たまに父さんと話をするときに母さんの話題が出ると、微かに目が潤んでいるのはわかる。
 まぁそんなことがあって、俺は母さんがいない。親一人子一人で、しかも二人で家事をしてるときたら、自然と気があっていくもんだ。
 俺が小学校の頃から、会社勤めだった父さんが会社をやめ、家で仕事をするようになった。リストラされたんだろうが、そんなことはおくびにも出さず、前よりも必死で働いてる姿を見たら、追求する気持ちも失せた。給料がいくら入ってるのか聞いてはいないけど、前より悪くなってるのは確実だ。だけどそれでも頑張ってる姿はかっこいいなぁと思って、密かにあこがれてたりもする。
「なぁ鉱」
「ん?」
「彼女は大切にしろよ」
「まぁ、善処する」
「はっは、それでこそお前だよ」
 言って背中をばんばん叩いてくる。
「いってーなぁ」
 笑いながら答える。こういう時間もいいな、って思ってたりする。
 なんだかんだやってるうちに、二人が風呂から出てきたらしい。

   ■

 お前ら。ここは他人の家なんだから……。
 なんでこいつらは自分の家のごとく、過ごしているのだろうか。理解に苦しむ。
 二人ともショーツはいてブラつけて、それ以外は何もつけずに、ってもうすでに半裸状態なのですが……。
「おにーちゃーん!」
 春名がこっちを見るなり走りこんでくる。
「こーくんに飛びつかないで」
 その首根っこを掴んで持ち上げる逢坂。
「ぶー、アイちゃんのいぢわる」
「こーくんは私の夫だから。軽率な行動はやめてよ」
「ぶー」
「いいからお前ら、何でもいいから服着ろ」
 その状態は目に毒なんですが。
「でもこーくん。私の服は全部洗濯機の中に入れちゃったけど」
「え、ちょっと、着替えとか持ってきてないの!?」
「もちろん」
「こいつっ! 確信犯か!!」
「あー、ボクもボクもー!」
 とりあえずどうにもならないので、そこらへんにおいてあったTシャツを渡す。サイズはLLだが、無いよりはましだろ。
「春名はー、えーっと、ないからこれでいっか」
 あたりを探しても残ってる服がYシャツしかなかったので、春名にはYシャツを渡す。すこし大きいが我慢してもらおう。
「あー、こーくんのにおいこーくんのにおい……」
 洗剤で洗ってあるから匂いも落ちてるはずだがな。それでも逢坂なら嗅ぎ取れそうで怖い。
「おにーちゃーん。これおーきーよー」
「わかったわかった。っつってもそれしかないから我慢し――」
 振り返って春名のほうを見たとき、こう、抑えなくてはならない衝動が湧き上がってきたというか、こう、これはもう男として生まれたらどうしようもないことだというか……。
 駄目だ。裸Yシャツとか凶悪すぎる。
 あの中身が見えそうで見えない下着がこう、魅せてくれるのに、その上に極上のチラリズムのYシャツときましたか。俺がこの状況を作り出したんだけど、正直ここまでの破壊力を持ってるとは思わなかった。
 春名よ。その天然属性は卑怯すぎる……。
 でもここで少しでも春名を気にする発言をすると、横にいる逢坂に何を言われるかわからないので自重。
「で、二人ともいつ帰るんだ?」
 ちょっと思っていたことを何気なく口に出す。
「今日はこーくんと寝る」
「久しぶりにおにちゃんと寝る~」
 どうやら地雷だったようだ。やぶへびとも言うか。
「鉱。わが息子ながらうらやましいぞ」
「父さん。いいからちょっと黙ってて」
「駄目、こくーくんは私と寝るの!」
「ずーるーいー!! ボクだって妹なんだから一緒に寝るー!!」
 ちょっと待て、この展開はやばい。なにか数十分前と同じような既視感を感じるんですが……。
「そうかそうか。じゃあみんな一緒に寝ればいいじゃないか」
「空気読めこんのロリコンクソ親父がああぁぁぁぁぁぁああああああ!!」
 俺の右手が父さんの顔に突き刺さった。

   ■

 上から見て右側が春名で、左側が逢坂だ。二人ともパジャマを持ってきてたりはしなかった(どうみても確信犯だが)ので、しかたなく先ほどのままの服装で眠りについてもらうことになる。ということは、二人はぶかぶかのTシャツとぶかぶかのYシャツを着ているわけで、下着の上に直接着ているそれは肌を隠す機能をしっかりと果たすことがない。必然的に肌の触れ合う面積が広がると言うことでもある。
 まぁ、まがりなりのも高校生だし、ましてや春名なんて毎日、毎朝のように触れ合ってきたんだから問題はない。問題はないはずなんだけど、火照った体から立ち上る肌の温度とか、シャンプーしたばっかりの香ってくる匂いだとか、そんなに真剣にさわったことにないすべすべの肌だとか、もうなんというかいろいろ異次元の未体験ゾーンに突入しているのですが。
 これが仮に逢坂と二人っきりで、父さんもどこかへ出張していて、このムードだったならば向かうルートはひとつだったのだが……。
 実際の現実はそんなに甘いわけもなく、父さんは隣の部屋で一人さびしく寝ていて、俺の隣には逢坂と春名が、バチバチという音が聞こえてきそうなほどに、俺を挟んで視線を交錯させている。今にも両腕をつかまれて引っ張り合いとかが始まりそうな空気に内心はヒヤヒヤ冷や汗かきまくってる。
「……」
「……」
「……」
 沈黙がつらい。なんというか。どうしようもないことって言うのは実際本当にどうしようもないんだよなーと、意味不明な思考に逃げてすごそうとしている自分がいる。なんてヘタレなんだ俺。
 時刻は12時。いつもなら全然これからが活動時間なので、あまり眠くないのが本音なのだが、そんなのは無視して寝てしまいたい気分でいっぱいだった。でも寝入っちゃったらそのあとの体の安心が遠のいてしまうのは必然で。ずっとおきているという案もあるけど、それだとまだ明日の朝まで7時間という永遠とも感じられる時間が待っている。
 さて。どうしたものか。
 あとついでにどう我慢しても下半身にあつまってしまう血液を何とかしてほしいんだが……。
 よく考えたら、というかよく考えなくても、左右にいるのは限りなく半裸に近い女子が二人で、なんつーかハーレムじゃね? ……自分で言っててむなしくなってくる。
「ねぇこーくん」
 逢坂が話しかけてきた。ヒソヒソ話じゃないということは、春名にも聞かせることを前提で話しているのだろうか。
「こーくんは本当は誰が好きなの?」
「――――」
 直球ど真ん中ストレート。この上ないくらいに率直に聞かれてしまったら、ごまかす余地がまったくないではないか。残酷すぎるって逢坂。
 言ったそばから、逢坂が腕を絡めてくる。肌のぬくもりが腕に伝わる。あたたかさで頭が混乱してきそうだ。
 春名は春名で逆の腕をつかむ。不安なのだろうか、ぎゅっとつかんだ手を話す気配はまったくない。視線は上目遣いで、俺を見ている。今にも泣きそうな、それでいて期待を含ませているような。なんともいえない気持ちを、その顔はよくあらわしていたと思う。
 確かにここでいつものとおり、ウソでごまかして、結論を先延ばしにすることはできるだろう。ただ、それでも俺はこれだけのお膳立てが整った状態で何も結論を出さないと言うことを、選択することはできないと感じていた。
「――――」
 数十秒の沈黙の後、俺はおもむろに口を開いた。
「……わからないなぁ」
「こーくん!」
「おにーちゃん!!」
 即座に二人の叫ぶような声と、すがるような腕への荷重がかかる。
「二人とも落ち着いて。まだ全部言ってないから」
 なだめると、二人はとりあえずは落ちついた。ただ、それも表面上だというのはわかってる。
 説明をしないと。
「正直言ってまだわからない。さっきは愛のことを愛してるって言ったけど、それも確実なものじゃない。だって、まだ俺は愛のことをほとんど知らないだろ?」
「でも……」
 釈然としない声で反論しようとする逢坂。
「そんな可哀想な声出すなよ。何も嫌いって言ってるわけじゃないんだ。もっとよく考えてみろ? まだ知らないことがあるってことは、まだ好きになる余地があるってことじゃないか」
「おにーちゃん……」
「それに春名のことだって好きだよ。今までずっと一緒にいた。お隣さんだったから長い付き合いだったけど、それでもまだ知らないことはたくさんあると思う」
 半分は正直な気持ち。でも半分は、やっぱり結論を先送りにしたいという甘えから来てる言葉だった。でも、それでも今の俺の気持ちは多分これであってるんだろう。
「二人とも嫌いになんかならないし、これからも好きになってく。でも、そんなに急ぐ必要はないだろ。愛に逢ったのはそれこそ、ほんの二日前だし、春名だっていきなり今までの関係を壊そうとしなくてもいいんじゃないかな」
「……」
「……」
 二人は思案顔でうなずく。
「急ぐことはないんだ。今日は何も考えずに、とりあえず寝ようぜ」
「うん……」
「わかった」
 どうやらわかってくれたようだ。納得してるかは別として、だが。
「そうだ、明日、先に起きたら起こしてくれよ。遅刻ぎりぎりはもう勘弁だからな」
「じゃあ私が起こしてあげるからね」
「ダメ、ボクが起こすのっ!!」
「はいはい。じゃあ先に起きたほうにお願いするね。早く寝ないと起きれないよー」
 言った途端に眠りに入ろうとする二人。うーん。なんというか単純だよなー。この二人が特別単純なのか、それともみんなこんな感じなのか……。前者だろうな。
 せっかく寝ようとしてるところに話しかけるのも野暮なので、俺も寝るとする。
 うん。
 結果オーライ。
 眠気はなかなか来なかったけど、安心した心はすぐに俺を寝かせてくれた。

   ■

 夜中にふと目が覚めた。
 特に大きな音が聞こえたとか、うなされるほどの悪夢を見ただとか、春名か逢坂が襲ってきただとか、そんな要素はまったくなく、ただ単に目が覚めた。
 日の昇っていない時間帯なので当然あたりは暗く、電気も完全に消してあるので窓から入る月明かりだけが視界を確保してくれる唯一の光源だ。
 時計を見ると針は4時半を刺していた。二人が起きる時間まで、まだあと2時間はあるはずなので、それを考えるとすぐに寝てしまうのが最善の策だろうと考えた。
「ん……」
 つぶやきは左右から同時に。微妙に息が合ってるのがなんだか妙におかしくて、思わずくすりと微笑んでしまった。わずかな光に照らされて、輝くように光る春名の肌。体はまだ高校生に見えないくらいに成長が止まってしまったみたいだけど、中身はそれなりに成長しているのだろうか。日ごろの言動は身体と分相応だけど、女子の考えることはホントにわからないから、それが真実かどうかは確実じゃない。まぁ、俺が見てる春名が俺に取っての春名なんだよ。そう考えて、心を納得させておく。
 二人の頭をなでながら、頭をまわす。
「妹……か」
 ふと、ひとりごちる。
 妹って言ったら妹みたいなものであったと思う。いつも一緒に遊んで、いつも無茶するのは春名のほうで、俺が注意してもどんどん先に行ってしまう。暴走機関車みたいな奴だった、昔から。
 それがいつのことだろうか、意図的に遠ざけていたのは。
 中学校に入った頃からだったか。
 向こうの態度は変わらないのにこっちだけ避けてるっていうのは、春名にも感じられていたと思う。でも俺はその態度を変えることができずに、それがおふざけだと考えて、自分の心を春名から離そうとしていた。
 その反動なんだろうか? 今の状況は。
 春名は今の状況を満足してるんだろうか。
 一人の女として接してくる逢坂のようではなく、家族の一員として見てもらおうとしている今の境遇をどう思ってるんだろうか。正直、春名のことを妹としてみるのはとても自然なことで、そこに違和感はほとんどない。春名がそれならそれでいいんだけど、本当にそれでいいのか? 俺が悩んでもわからないことだろうけど、考えてしまうのは春名のことを思ってのことなんだろうか。
 それとも逢坂と一緒にいることでこの態度なんだろうか?
 逢坂についても思いはめぐる。
 同じように月明かりに照らされて、きらめく黒い長髪。整った顔立ち。あらためて見ても、綺麗なのは変わりない。
 逢坂の心は本当にここにあるのだろうか?
 出会ったばかり、というわけではないけれども、それでもまともに話して二日の相手をどうしてここまで信用してるんだろうか? ひとめぼれにしても、逢坂の行動は少々大げさすぎる気がする。
 そういう性格と切ってしまうのもいいけど、何か昔にあったのだろうかとも勘繰ってしまう俺は、少々卑劣だろうか。
 考えるほどに思考はうずを巻いて行く。
 態度を決めかねている俺こそが一番ダメダメだろな、とは思うけど、どうにかできるとは思えない。
 それでも。
 逢坂の行動についていこうとすることならば出来るし、春名の気持ちに答えることも同時にできないこともない。
「結局は、俺次第か……」
 しばらく頭をめぐらせていたおかげで、眠気も戻ってきた。
 明日の朝どっちに起こされるかを楽しみにしてもいいだろう。
 眠気に身を任せ、堕ちるように眠りについた。
  1. 1990/01/04(木) 02:04:00|
  2. 創作小説
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