電撃文庫と堕落生活*でんだら*

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【くるこい】第2話 嫉妬

第2話

「そうかそうか。オレの親友は、どうやら本格的にオレに殺されたいらしいな」
「いいよむしろいっそ殺せ。そして逢坂と春名に殺されてしまえ」
 教室に着いたとき、俺の体はすでにボロボロになっていた。俺の精神もボロボロになっていた。
 だってしょうがない。両手に二人を絡ませた状態で登校したんだ。しかも生徒が一番多く混みあっている遅刻ギリギリの時間帯。
 周囲からの視線は痛いわ、両手の茨が二人して睨み合ってて一触即発状態だわ、そのイライラのとばっちりをなぜか俺がウケて相変わらず両手が痛いわ。そうだこれはハーレムなんだ。みんなが俺を好きになってくれている幸せ絶頂!! ……そうでも思わないとやってられない。
 昨日までは春名も一緒に登校していたが、こうもあからさまにくっついてきたのは今日が初めてで、今までは幼馴染ということで通していたのにこの今の状況を見られて、その弁解が通用するかといったら、全力でYESと叫んだ瞬間にタコ殴りに遭うほど説得力皆無。
 いい加減助けてください。
 というような内容と昨日の話を、コイツにまとめて話したら、さっきの台詞がかえってきた。
「でもいいよなーコウは。……なんでそんなにモテるよ?」
「人格がいいからじゃないか? 少なくともお前よりは」
「コイツ……ああいえばこう言う。ちなみに今の『こう言う』は鉱の名前のコウとかけたんだけど、分かった?」
「どうみても、そういう発言がモテない原因だと俺は思うがな」
 親友と言って差し支えない相手なので、楽に話せるのが唯一の救いか。こんな話を笑い話にもっていけるのはコイツぐらいだ。中学からの腐れ縁とも言う。
 四島会華。しじまあえか。中学時代は、よく妹と一緒に三人で遊んだものだ。だから妹との関係は知ってるはずだろうに。
「しっかし、コウも貧乏くじ引いたな。アイツ中学の頃付き合った彼氏がいたらしいけど、その彼氏、今は登校拒否だって。何があったのかはわからないけど、気をつけたほうがいいぞ」
「逢坂か? まぁ普通じゃないっぽいのは確かだが。むしろお前のその情報網に俺は気をつけたほうがいいと思うが」
「噂ってのは聞き耳立ててりゃ聞こえてくるもんさ」
 そう言って、会華は肩まである長い髪をなでる。
「そんなもんかなぁ……」
 そんなもんなんだろうなぁとか思いながら、すでに自分の席に着いた逢坂を見てみる。なんかこっちを横目で見ていた。凄い眼圧。眼圧の意味は違うけどそう表現していいと思う雰囲気。見られてるだけで苦しいってなんだろう。
 今までのことを思い出してみて、ついでに今の状況を考えて……あー。確かに登校拒否になってもおかしくないかなーと再確認。自分の状況を考えると、これは本気で死亡フラグな気がしてきた。大丈夫か俺?
「まぁ頑張れコウ。オレは応援しか出来ないが、死なないように頑張ってくれ。どっちかって言うと死んでもいいが。いや、むしろ死ぬ方向で」
「適度に頑張るよ。死なないぐらいに」
 席が前後なので会華は前に振り返り、俺はそのまま前を向いたまま。ちょうどその時チャイムがなった。先生が入ってきて一限目が始まる。
 さて。
 問題はこの学校生活の中で逢坂がどう動いてくるか。嵐の前の静けさのような。そんな邪悪な予感がぷんぷんするのは多分気のせいではないだろう。
 これ以上振り回されるのは御免だからな。

   ■

 侮っていた。
 直接的なアプローチは昼休みになるまでしてこなかった。昼休みになって弁当を持ってきて、
「こーくん一緒に食べようね」
 っていう展開はまあ許す。仮にも恋人だから(あくまで俺の中では「仮」だ)ありえる話であるし、普通の展開と言って差し支えない。春名も弁当を持ってきて、さらに事態がややこしくなったのは、ここではおいておくとしよう。
 問題はそこまでの授業と休み時間。午前中の精神疲労についてだろう。
 俺の席は真ん中の一番後ろで、会華の席がその前にあって、逢坂の席は左の窓際の後ろから二番目。俺が横を向けば逢坂は視界に入るし、逢坂も横目で俺を確認できる。
 で、だ。
 その視線が延々と俺に注がれてるって言うのは感覚で分かった。うん。もうなんかそっちを見たらダメだと思った。目が合った瞬間になにか大変なことが起こる気がした。実際は授業中だし特に目立つ行動はしないと思ってたけど、それでも怖かった。
 だからって前を向いていても逢坂の視線が消えるわけでもなく、延々と注がれるまなざしに精神が先に病んでしまいそうだった。
 さらにひどかったのが休み時間になってから。女子が近くに来るたびに燃え上がる殺気。いやいや。そこまでいちいち反応しなくていいから。
 そうして疲労がたまりにたまった昼休み。
「おにーちゃ! お弁当持ってきたから食べてね!」
「こーくんは私のお弁当を食べるでしょ?」
「いろいろと言いたいことはあろうが、何も考えずに二人ともついて来い」
 このクラスにいるのは無理。さすがにこのラブラブムードは、今のクラスのテンションから浮きすぎている。それよりも他の男子の視線に射抜かれて、心のHPが0になりそうだったし。
 行き先は屋上。といいたいところだったが、この学校の屋上はそんなたいそうなものではなく、鍵を持ってないと外に出れないというアナログセキュリティ付き。俺は天文部だったりはしないので鍵を持ってるわけもなく、行く所は部室と生徒会室ぐらいしかなかった。
 部室には多分綾香先輩がいるだろうからあまり行きたくなかった。あの人のことだから、この3人で行った場合、俺がおもちゃにされて終わる。綾香先輩はいい人なのだが、おちゃめがすぎるので、あまり弱みを見せたくないのが本音である。
 というわけで3人で向かう先は生徒会室に決定。あそこなら昼休みは誰もいないだろう。鍵も持ってるし。
「こーくん、なんで生徒会室の鍵持ってるの?」
「おにーちゃん生徒会入ってないでしょ?」
「いやまぁうちの高校だと、生徒はみんな生徒会入ってるっていう扱いだから俺も愛も春名も生徒会員だけどな。と、そんな屁理屈はどうでもいいとして……。役員じゃないのは確かだな」
 生徒会室にある資料は結構な量で、なくなったら困るものも結構あるので一般生徒は入れないようになってる。というのがタテマエ。
「鍵は委員長からもらったんだよ。さっきクラスにいたろ? まぁ春名は見てなかっただろうけど」
「ボクおにーちゃんしか見てなかったから見てないよ」
 当たり前のように言うな。
「委員長って、来栖さん?」
「そうその来栖さん。1学期にいろいろあって、そのあともいろいろあって、結局俺も持ってた方がいいという結論で、鍵をもらった」
 役得というのだろうか。こういうのは。
「ねぇこーくん。来栖さんとも仲いいの?」
「ただの友達だから大丈夫デスヨ?」
「そうよね」
 ん? 反応が薄いのはなんでだろう? 俺の中の予想ではここから怒涛の詰問が始まりそうな予感だったのだが。やぶ蛇だから聞いたりしないでおくけど。
 と言っている間に生徒会室に到着。鍵を取りだして開けてなかにはいる。中はいろいろごちゃごちゃモノがおいてあって、お世辞にも綺麗とは言えない。
「そこの机の上のもの適当に横に置いておいて。向こうでお茶入れてくるからそこで座って待ってくれ」
 机と言っても会議室でよく見るような長机が二つあるだけだったのだが。
「やだおにーちゃんと一緒に行くー」
「何歳だよお前は。愛と仲直りでもしてろ」
「うー」
 そう言って春名を追い出し、一緒に長机を片付けに行かせておいて、給湯室のようなところに行く。重要なものがあるから鍵をかけてると言いつつも、実はここに常備してあるお菓子類とかお茶類とか、生徒会費から出てるものを見つけられたら困るから。というのが本音だろう。いやまったく。生徒会ってすばらしいですな。
 さて。あいつらに、来栖によって無駄に鍛えられたお茶汲みの技術を見せ付けてやりますかな。
「――――」
 と思って給湯室に入ると、目の前に人がいた。
 噂をすればなんとやら。って言葉をホントに使う日が来るとは思わなかったわ。
「――――ん? ああ、高坂じゃないの? 何でここにいるの?」
 イヤホンを耳から取り出し、訊いてくる来栖美樹。体を揺らしてノリノリで曲を聴いてたので、今までの俺の会話は耳に入らなかったのか。どんだけの音量だよ。
「委員長こそどうした? いつもここで飯食ってるのか?」
 来栖の手元にはカップ焼きそばが置いてある。お湯捨てるのを待ってたのか。道理で出てこないわけだ。
「ん? いつもってワケじゃないけど。最近はこのビッグペヤングがおいしすぎてたまらないのでここで食べているのです」
「前から思ってるけど委員長は食生活少し直したほうがいいと思うぞ」
「な、なんですとー!? 高坂はマヨネーズ入りのぺヤングの旨さを知らないからそんなことがいえるんだ!」
「焼きそばに変なもん入れるなんて考え思いつきませんから」
 言いながら、やかんに水を入れて火にかける。誰が改造したのか知らないが、ここのガスコンロは中華料理店に匹敵する火力を持っているので、お湯が沸くまで1分もかからない。来栖が言うには俺たちが入学したときにはすでにこの状態だったそうだ。ほんとに誰がやったんだよと思うが、しかしGJと言ってやりたい。
「ところで、最初のあたしの質問に答えてないよね?」
「そこについては、言う必要もないと思うので察してください」
「ああ、逢坂さんね」
 そりゃあ、同じ教室でしたからね。
「それプラス、もう一人後輩がいるからややこしくなってるんだよ」
「高坂……。避妊だけはしとくんだぞ」
「それは考えすぎだから!!」
 来栖の俺に対する印象はどうなってるんだろうか。想像したくない。

   ■

 忘れてた。
 そりゃ扉開けっ放しだから声も聞こえてるんだよな。
「こーくん。美樹と何話してたの?」
 給湯室から出てくるなり逢坂が問い詰めてくる。
「美樹? ああ来栖美樹か。いつも名前で呼ばないから忘れてたよ。まぁ話してたって言っても、どうでもいい話。だからただの友達だってば」
「美樹。ただの友達ってホント?」
 逢坂が俺の後ろにいる来栖に話を振る。あれ? 名前で呼んでるし、この二人そんなに仲いいのか?
「ホントホント。大丈夫だって。そんな裏切るようなことするわけないじゃん」
「そうだよね。…………あの、えっと、ありが……とぅ」
「いいって、気にしないでいいよ。そのほうがあたしも楽だしね。高坂もいるんだし元気出して!」
「?」
 なんかあの二人でよくわからない空気をかもし出し始めたが、惨劇が回避されただけ良かった。雰囲気が百合っぽいように思えてくるのは俺の頭がやばい証拠だん。女同士の友情ということで脳内会議を和解しておく。百合ってなんだよ百合って……。
「あ、来栖先輩!」
「あー! ハルにゃん、元気ー?」
「あれ? 春名と委員長も知り合いなの?」
 こっちの関係は意外。知り合いだったんだ。いやぁ、学校って狭いな。
「ボクと来栖先輩はバレー部で、来栖先輩はバレー部の先輩だから来栖先輩なんだよー」
「ああ~もうかわいいなぁハルにゃん。ちゃんと言えてないところがまたかわいいよね~。ほれほれ~」
 春名を抱きしめて、頭をぐりぐりする来栖。
「来栖先輩やめてよ~、です」
「敬語言えてないハルにゃんも、またかわいい!」
 何か色々と男子にはわからない人間関係があるようで。この状況で俺はどう立ち回ればいいのか全く不明。
 ただ、逢坂が殺気を放ってないだけ、さっきよりは空気が良くなった。ありがとう来栖。

   ■

 結局来栖も一緒に食べることになって、4人で弁当を食べ始めたのだが、この配置はいささかおかしいんじゃないかと思う。
 春名、俺、逢坂。で、向こう側に来栖。3人と1人。
 しかし、唯一救いだったのは、来栖と逢坂が仲が良かったということか。まぁ同じクラスだからそんなにありえない話じゃないか。
 来栖は生徒会の書記であり、学級委員長であり、そしてクラスのリーダー兼ムードメーカー的存在。ムードメーカーといえば、うちのクラスにはもう一人会華という猛者がいるけど、会華はリーダーって感じじゃないから、やっぱり来栖が委員長として適任だと思う。
 来栖は特に分け隔てなく誰とも話しかけるし、いつの間にか友達になってたりする。凄いなーと素直に思える反面、八方美人はきついんじゃないかなーとたまに思ったりもするが、そこらへんは邪推か。
 なんにせよ。だ。
 来栖がいるから場の空気がよくなる。と思っていた俺の目論見は、脆くも崩れ去った。
 二人とも来栖が知り合いだと言うわけで、特に注意も払うことなく、俺に全ての注目をしてきた。結果、登校時と同じ状況に陥るわけで、
「こーくんは私のお弁当だけたべるんだよ?」
「ずるいー、おにーちゃん! ボクのお弁当全部たべてよね!」
 その後も数分間口論が続いたり、実力行使に出たり、いろいろとあったが、最終的には二人の弁当を半分ずつもらうことにした。正確に半分取らなくてはならないのが大変だったが、フォークで刺されたり、箸で目潰しをくらいそうになったりしながらなんとか危機を乗り切った。
 蛇足だが。一つ付け加えるならば、なんで料理の初心者は隠し味というものにそこまで気を使うのだろうか。隠れていない隠し味は、隠し味ではなくただ味のバランスを崩すだけなのは自明なのに……。
 男の意地で、吐くのだけは耐え切った。半分にしてなければ耐え切れなかったと思う。あと、残った半分の弁当を、二人とも自分で食べなかったのは釈然としないというか、……まさか確信犯なのか?
 前の席の来栖がずっと笑いをこらえてたのは、まぁ至極当然だろう。一口、口に入れるたびに変わる俺の表情を真正面から見てたんだから。
 これが会華だったら一発殴ってやれたのに。

   ■

 食後。と言っても俺にとっては拷問に等しい時間だったが、なにはともあれ、食事の時間が過ぎた後。
「で、愛。一つ言いたいことがある」
「なにこーくん?」
「春名、机の下で足踏むのは無しな。で、愛。ついでに春名にも言っておく」
「なにこーくん?」
「どしたのおにーちゃん?」
「なになに高坂?」
 あー。なんか色々とめんどくさい。あと来栖。調子に乗るな。
「いろいろと言いたいことはあると思うが、なんにせよだ。俺は愛以外の奴になびいたりしないし愛が一番好きだから。ちょっとぐらい他の女子と会話したぐらいで反応するな」
 すまん逢坂、嘘だ。むしろ、そろそろ逢坂以外の奴に乗り換えたい気分。もう正直春名でもいいくらい。
「でもこーくん……」
 瞳を潤ませて、こっちを見る逢坂。
「お前は、俺のことが信じられないのか?」
 なんだこの台詞。むしろ俺が誰だ。
 これ以外の解決方法は無かったのかとあらためて考えてみるが、これ以外のルートは確実に死が待ってる。いや、このルートも最終的には死亡フラグ直結だろうけど……。
 というか、そのこと以上に春名の顔つきが怖いんですが。
「というわけだ春名。俺の彼女は愛。そしてお前は妹、これでいいな」
「うー、でもー」
 口を尖らせて渋る春名。しょうがないか。
「じゃあ、学校の行き帰りは一緒に行ってやるから」
「え、ホント!?」
「ほんとほんと。その代わり学校は愛と一緒にいるからな。押しかけてくるなよ」
「わかったわかった!」
「素直でよろしい」
 表情には出さないように極力気をつけているが、どうなっているかはわからない。前代未聞の罰ゲームに近い台詞を言わされた側にとっては、今すぐここから消えうせたい気分だ。
「ねー、高坂? あたしは?」
「委員長は友達。クラスメイトだから。そして俺たちの委員長。今ここにいたのがイレギュラーだっての」
「ひどいなー高坂はー」
 わかってる。軽く酷いこと言ってるのはわかってる。
 でも来栖だって顔が軽く笑ってるし、それ以前に、こうでも言わないとさっき逢坂に言った言葉の信頼性が無くなるからしょうがないんだよ。察してくれ。
「しょうがないか。あたしはしがない学級委員ですよー」
 来栖は言いながら、手を振って生徒会室を出て行く。
「3人で仲良くねー。高坂ー、さっきのは聞かなかったことにしてやるから、今度なんかおごってー」
「はいはい、わかったわかった。じゃあ先にクラス戻っててくれ」
「じゃーまたねー」
 扉が閉まり、生徒会室に残ったのは、俺と春名と逢坂のみ。
 最初に入ってたときと違うのは、空気が少し明るくなったかなぁってぐらいです。そんなに大きな変化はないけど、逢坂が落ち着いてくれたのはうれしかった。春名も結構ご機嫌だし。
「じゃぁ、そろそろ時間だし戻るか」
「うん。おにーちゃん」
「はい。こーくん」
「そうそう、学校の中では腕を組まないこと。っていう条件もつけるからな」
「ぶー」
「えー」
「はいはい。とにかく離して。教室戻るぞ」
 何はともあれ。
 よかった。
 ……………………のか?

   ■

 結果的には良かったのかもしれない。
 午後の授業は比較的スムーズに進んだ。あいもかわらずこっちをじっと見てたけれども、午前中に比べればいくらか眼圧も減ってきて楽に過ごせた。
「じゃあまたな。俺部活あるから」
 恨みがましい視線を浴びせたところで、部活がなくなるわけでもないんだからそんな目で見るなよ逢坂。
「こーくん、今日は一緒に帰らない?」
「いや愛は帰宅部だけど、俺はとりあえずとは言え部活入ってるから、そっち顔出さなきゃならないんだよ」
「じゃあ私も部活はいればいいの?」
「そういうわけじゃないよ」
 待ってくれ。この状態で、逢坂がうちの部活に入られた日には俺の世界が終わる。平和な時間を少しでいいから残させてくれ。
「恋人としてお互いのことを知っておいたほうがいいこともあるけど、知らないほうがいいこともあるだろうし、そうだ。じゃあ愛は先に帰って俺の家に行っててくれ。そこで父さんと一緒に夕飯を作ってくれないか?」
「え、こーくんの家、行っていいの!?」
「あぁ、いいよ。その代わり、俺が帰ってくるまで部屋には入るなよ。それまでのお楽しみだから」
「こーくんのおうち。こーくんのおうち。こーくんのにおい。こーくんのこーくんの……」
 すでに目がイってる。やっぱり付き合うって言ったのは間違いだったなぁ。
 なんにせよ。とりあえずごまかしきれたのでよしとする。
「じゃあ俺は部活行ってから帰るから。先に帰っててくれ」
「こーくんのこーくんのこーくんの……」
「聞いてるのか……? まあいいや。じゃまた後でな」
「こーくんのこーくんの……、あ、じゃーねーこーくーん」
 じゃあね。このまま永遠にさよならでもいいけど、そんなことは許されていない。残念。今日の弁当の様子からすると、春名とどっこいどっこいの料理レベルだと思うが、父さんが何とかしくれると信じよう。あの親父も、さすがに自分が食べる料理だ。ちゃんと教えるだろう。台所がどうなるかは俺にはわからないが。
 思いながら部室に向かうために角を曲がった瞬間、目の前にぽつんと立っていた春名にぶつかってしまった。
「す、すまん春名。大丈夫か?」
「おにーちゃん。アイがおにーちゃんの家に行くって本当?」
 何かいつもとは違う雰囲気を漂わせている春名にすこし怖気づいていまう弱気な俺。
「き、聞いてたのか……」
「それで、さっきの話、本当?」
 な、何なんでしょうかこの逢坂にも似た空気は。
「本当?」
「あー、いやーそれはーまぁ、嘘ではないと言えば嘘ではないけど……」
「嘘じゃないんだよね?」
「………………はい。すみません本当です……」
「――――」
「――――」
 こ、怖すぎる! 何なんだこの沈黙は。上目遣いで見てくる春名の目が、目がぁっ!
「ず……、」
「ず?」
 一瞬後、廊下に響き渡るほど大きな声が響いた。
「ずるいぃぃぃぃぃーーーーーーー!! アイだけずーるーいー!!」
「こら! ちょっと待て春名そんな大きな声出すな!!」
「ずるいよぉー! なんでおにーちゃんはアイだけそんなに特別扱いするの!? ボクだっておにーちゃんの家で夜ご飯作ったことなんか一度もないのにー!!」
「わかった! わかったから声量を下げてくれ! ボリュームを下げろ! ボリュームダウン!!」
「だってだってだって! ボクはおにーちゃんの妹なんでしょ? おにーちゃんは家族のキズナよりも女を優先するの!?」
 周りに人が集まってきた。待って待って、なんでこんな修羅場っぽい状況に陥ってるんですか!? しかも春名の目から涙あふれてきてるし。これ状況証拠的に俺が泣かせたってことになるの!? え、ちょ、それは待って頼むから泣き止んでくれ!!
「そういうことじゃないから! 違うんだよ春名」
 嘘でもいいから場を取り繕わないと、学校での俺の立場が本気で危うくなってしまう。
「違うんだよ春名落ち着いて聞け。よく聞いてくれ。とりあえず慌てず泣かないで兄さんの言葉に耳を傾けてくれ」
 一人称兄さんって何だよ。人間は焦ると混乱する傾向にあるらしい。
「家族ってのはあれだ。いつも一緒にいるもんだろ? だからそんな特別なことをしなくても一緒にいるんだよ。わかるか?」
「えーっと。なんとなく……」
 こいつは高校一年なんだよなぁ。これから先、騙されないで生きていけるか不安になってくる。まぁ今までそう思わなかったことはないのだが……。
「つまりだ。春名。お前がいつ俺の家に来ても、それは気にするようなことじゃないし、あえて言う必要もないわけだから、言わなかっただけなんだよ」
「じゃあ、いつでもおにーちゃんのところに行っていいの?」
「全然大丈夫。ただし、そのときに愛がいても喧嘩しないこと。これだけを守ればいつ来てもいいんだよ」
 なんか今死亡フラグが立った気がするのだが。
「本当!?」
「ほんとほんと」
 もうどうにでもなれ。というしかない。この場を乗り切るために言ったことだが、あまり賢い選択だったとは思えない。
 いや、もう昨日今日で失敗しすぎてるんだ。いまさら一つ二つミスったところで大勢に変化はないだろう。そう楽観視でもしないとやってられない。
「やたー!! じゃあ今からおにーちゃんちに帰ってボクもおにーちゃんのよるごはんつくるー」
「いやいや、春名には部活があるだろ。ちゃんと出席しないとだめだろ」
「でも春名はおにーちゃんのよるごはんをつくらなくちゃだめなのです」
「俺は部活にいくから、お前も部活行け。一緒に帰ってやるから」
「んー。んー。んー」
 どうやら春名は俺と一緒に帰るというのと、一人で帰って夕飯をつくって俺を迎えるという二つの選択肢の前で揺れているようだ。頼むから逢坂がいる状態で家に行かないでくれ。多分父さんが精神疲労で死ぬ。
「じゃあ一緒に帰る!」
「よしよし、じゃあ部活行って来い。帰りは校門のところで待ってるからな」
「うん!」
 だからお前は何年生だよ。ツッコミは心の中だけで。
「また後でなー」
「絶対待っててねー」
 手を大きく振りながら去っていく春名。かわいいんだけどなぁ。ちょっと騒がしすぎるのがたまにキズなんだよなー。と思いながら俺も手を振る。
 春名が廊下の角を曲がって向こうに消えて行く。あいつはバレー部なので、そのまま体育館に往くのだろう。
 はぁ。と、一安心した途端に疲労がどっと出てきた。逢坂といい、春名といい、来栖といい、なにかと扱いづらい面子ばかりで体が持たない。まだ今日が始まってから一日も過ぎてないのに、一週間過ぎたかのような疲れ具合。これは本格的に鬱にかかってもおかしくないですね。
 心の中でぐちぐち言いながらも部室に向かって歩く。
 先ほど春名と話してた場所から離れるとき、周囲の視線とひそひそ声が痛すぎたが、そんな程度ではもはや何も感じないほどに神経が麻痺してきた。ハハハ。終われ俺。
 部室につき、ガラガラっとドアを開ける。
 目の前に、下着姿の綾香先輩がいた。
  1. 1990/01/04(木) 02:02:00|
  2. 創作小説
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