電撃文庫と堕落生活*でんだら*

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【ConceCt】第6話 襲撃

   第6話 襲撃

「出発だ」
「は?」
 唐突に、というか唐突としか言いようの無い状況でキノさんが言った。
 唐突過ぎるタイミングだったのでオレは反論。
「キノさんの言っている言葉の意味はわかるけど、キノさんが言ってる意味がわからないので拒否を希望します」
「依頼だ。1時間後に出発する。用意しておけ」
 無視。そう言ってキノさんは自分の部屋に入っていった。
「・・・・・・出発って言っつったって・・・」
 前回の対象A、もとい熊との戦闘からまだ1日と経ってない。というか、今は午後6時。その仕事は深夜0時過ぎにあったわけで、正確に言えば今日の出来事で、依頼がこんなに立て続けに入ったのは今までに一度も無かったから、不安感が軽くしてくるんだが。まったくどうしてくれようか。
 まあ、言った所で誰もどうもしてくれないのは眼に見えてるからどうしようもないんだが。
「まあいいんじゃない? どうせ暇でしょ?」
 呑気なことを言ってくれた明日香は、なんか元気にいつもの通りにポテチを喰いながら、競馬新聞を読みながら、MDを聴きながら、手帳に何か書き込むという行動を同時並行的に行っている。それプラスあとオレとの会話。まったくどんな脳してるんだよ。聖徳太子か。
「つか、暇とかそんなことより怪我とかもう大丈夫なのか?」
 前回の戦闘で派手にやられたオレとしてはもう少し休んでいたかったのだが、どうやら明日香は元気に動き回りたいようだ。
 ちなみに今日は平日。俺と明日香の二人は怪我を理由に学校を休んでいる。仮病じゃないよ。ホントだよ。
 だってオレはなんか空中浮遊した上に硬い木に思いっきり背中をぶつけて、ついでに腕はクイックロッドの衝撃でふらふらだったし。そして明日香にいたっては、直接あの蹄で殴られて吹っ飛ばされているので、学校を休むには十分すぎるほどの怪我だ。
 まあ別にサボってもいいんだけど、それはそれで田中に負けた気がする(←意味不明)から嫌だったんでとりあえず怪我で休むことにしておいた。
 そしてこの場にいない洸平は、当然のように学校に行っている。アイツは怪我とかなんとかそんなものは全く関係ないし、というか最後に出てきて倒しただけだからダメージとか受けてもいないんじゃねえか? ああ、なんか考えたら腹が立ってきた。死んで欲しいな。真面目に。身体が黄色の斑で埋め尽くされる奇病で。
 なんて考えてると、忘れていた明日香からの返答。
「まだちょっと体は痛むけど特に問題は無いわよ。あんたほどじゃないし」
「そうか? ならいいんだけ・・・いや良くない良くない。オレがダメだダメだってマジで体痛いんだってば」
「そう? あんまり痛そうに見えないけど?」
 いや明日香てめぇこっち見てないだろ。それ視線どう考えても手元の新聞にいってるよな? な?
「あー、まあもうどうでもいいや。どうせオレが何言ったって何も変わらないんだし」
「そうそう。変わらないんだから無駄な抵抗はやめることねーー」
 手をひらひらさせて言ってきてもこっちの殺意が増すだけなのをアイツはわかっているのだろうか。ああ、わからせてやりたい。
 と、そんなことを話していたら玄関が開いて誰かさんの声が聞こえてきた。
「ただいまー、って言っても明日香さんの聴覚なら多分事務所前の100mぐらいから気付いてたのはわかりきったことですけど、まあここにはそんなに聴覚が優れてるわけでもないけど一般人よりは若干優れているかもしれない龍花さんがいるので下のレベルに合わせて入室すると同時に挨拶してみましたがどうでした?」
「挨拶以外は全ていらないからいっぺん死んでもう一度死ね」
 洸平が帰ってきたということは全員集合で、問答無用でオレの意見なんか無視されるのはわかってたけど。
 あー。疲れてるんだけどなー・・・。

          *     *     *

「所長。東南東方向三キロ地点に人間と思わしき熱源を合計4確認しました。どうやらこの研究所に向かっているようです。どうなされますか?」
 量子コンピューターの液晶画面を眺めながら小夜歌は更沢に問う。
「小夜歌君はどう対処するのがもっとも適切だと思うかな?」
 更沢の切り返しに戸惑いながら小夜歌は答える。
「すみやかに消去するのが適切かと思います。この方向に向かってきているということは、既にこの研究所のことを知っている可能性が高いです。先ほどは申し上げませんでしたが、さらに一キロ後方に駐車してある軽自動車を確認しております。このことから遭難という線は消えると考え、単純にこの研究所を目指しているはずです。相手の目標が分からない以上殺してしまうのが一番確実かと」
 レーダーで確実に接近しつつある熱源を小夜歌と共に確認しながら更沢は言葉を紡ぐ。
「まったく小夜歌君は激しいね。いつもそうだからベッドの上でうぼぁッ!」
「何か言いましたか局長?」
「・・・だから小夜歌君、湯飲みも凶器になることをちゃんと知っておいてくれないかな・・・。まあそういう天然ドジキャラで攻めてきても僕はいつでも大丈夫だよ☆」
「言ってる意味が私には全く分からないので先に進めてください」
 小夜歌は手に持った、底が少し欠けた湯飲みを置いて再び画面を見る。ちなみ欠けたのは今だ。
「しょうがないな小夜歌君は。・・・まあとりあえず説明するけど」
 そういうと、まるで教師のように語りだした。
「このタイミングで彼ら、いや彼女らかもしれないが、彼らの殺害を決めるのは早計だね」
「何故でしょうか?」
 更沢は自分の分のカップを取り、コーヒーをすする。
「だって、かわいそうじゃないか? ホントはただこの研究所の見学に来た良心的な学生さんかもしれないよ? そんな子を簡単に殺してしまっては駄目じゃないか」
「しかしですね・・・」
「それに」
 小夜歌の抗議をさえぎるように言葉を重ねる更沢。
「僕たちと違って一般人には家族がいる。彼らの家族が自分の子供や自分の親の不在に気付く可能性だってあるかもしれない。そのときに此処が怪しまれることだってある。いくら認識結界を張っていたところで、多数の人間が集まったらその効果が分散して上手く働かないことは君も良く知っているだろう? 小夜歌君」
「・・・はい」
 言葉だけで小夜歌は答える。
「殺害はどうしてもやむを得ない場合に留めておこう。まずは記憶操作でどうにかしてみようか。幸いそのための道具は本部から支給されているからね」
「理解しました」
「よしじゃあ答えを教えてあげたお礼に・・・」
「何も出ません。では」
 小夜歌は立ち上がり、倉庫に向かって記憶改竄装置を取りに行った。
 自動ドアが閉じる音がして、観測室の中には更沢一人になる。
「さ、て」
 更沢はさらにコンピューターを操作し、今までついていなかった監視カメラの情報を画面に映し出す。
「やはり、・・・昨日の彼か」
 十分に冷め切ったコーヒーを再び口に含み、画面を眺めながら独り言を呟く。その画面に映っているのは乙、龍花、明日香、洸平の四人。何かしゃべっているが、この監視カメラにマイクはついていないのでその言葉を拾うことは不可能だ。
「まったく。何が目的かは知らないが、意図せず小夜歌君の策をとらなくてはならないことになりそうだな」
 誰もいない部屋で一人、そう言って、更沢は思考の深みへ落ちていった。

          *     *     *

 運転したのは洸平だったので、まだ生きていることが出来た。
「ということで洸平に続いて明日香も死んでおけ。ついでに洸平も一緒に地獄に連れて行ってくれ。オレは二人との来世での出会いに期待」
「意味不明なこと言ってる暇あったらしゃきしゃき歩きなさい」
 歩くのが暇になってきたからどうでもいいことを言い出したのだが、言った所で明日香にこの心意気が伝わる可能性は皆無なので、無駄なことはしないでおく。
 とりあえずキノさんについてきたのはいいけど、そういえばこの森って昨日来たのとほとんど場所変わらないんじゃないか? ほとんどといっても、山なのでかなり感覚は適当なんだが。
 カナに聞いたら詳しいことも分かるだろうが、別にどうでもいいことなので適当に流しておくのが賢明だろう。
 今日持ってきたのはいつもどおりの武装。コイルガンと予備弾装。ついでにナイフを数本隠し持ってきている。あとは防弾防刃服に、それと同じ素材の手袋をつけている。顔を隠したりしたほうがいいとか聞いた気もするが、まあどうでもいいだろう。周囲が見にくくなるリスクは冒したくないし、帽子はあんまり好きじゃない。髪が蒸れる。
 洸平も明日香もいつもどおり。洸平は黒杖一本だけだろうし、明日香は大量のナイフを仕込んでいることだろう。キノさんは・・・、まあどうでもいいか。というか見えないし。
 作戦も何も無いのに装備確認というまったくもって無駄なことをするほどこの森に飽きてきたので、カナでもおちょくって遊ぼうかな。
「つかキノさん。なんでこんなにゆっくり歩いてるんすか? 全力で行けば5キロとか別に数分で着くのに」
「トラ! 少しは私のこと考えなさいよ! それ何!? 嫌味のつもり!?」
「あーいやそうじゃなくてだな。先に行って待ってるっていうなんか余裕たっぷりないじめをカナに対して行おうかと画策してたんだが」
「そんなことしてごらんなさい? 刺してでも止めるわよ」
「刺そうと思っても刺せない。ほらATふぃーるどだよっていって遊んでいい?」
「ダメ。刺すわよ」
 なんかもうどうでもよくなってきたな。
 そういえば洸平がさっきから無言だがどうしたのか? 見ると洸平は黒杖の先にのっかったてんとう虫と会話していた。見てると脳がおかしくなってきそうなので九分九厘無視しておく。
 さて。
 まだ思考していないことがいくつかあったようなので、暇つぶしのために頭の中で考える。
 殲滅活動といっても何をすればいいかまったく分からなかったので先ほどキノさんに聞いてみた。キノさんによると、「全員の拘束又は抹殺。施設の完全破壊。この二つを完全に成して初めて殲滅といえる」ということらしい。よく考えてみて欲しいのだが、4人でどうやって全員の拘束、又は抹殺を行うんだろうか? 研究所というからには数十人、いや数百人はいるだろうに。こっちの戦力といえば4人。うち能力者は全員だけど、戦闘行為に使えるような能力を持ってるのは2人。キノさんはなんかよくわからんが絶対的に強いし、洸平に至っては「死なない」という神レベルな能力なのでどうにかなるかもしれないが、それでも人数が少なすぎると思う。
 まあでもそれだけ報酬は高いんだろうし、まあ結局洸平が何とかしてくれるだろうという希望的観測でいいと思う。
「そういえば龍花さんって彼女いるんでしたっけ?」
「あぁ?」
 今まで昆虫と対話していた人間にいきなり意味不明な言葉を話しかけられたら、発砲したところで誰もオレを責めないよなぁ?
「まったく、龍花さんったら危ないじゃないですか。普通の人だったら死んでますよ。まあそれでも僕はいたって普通なんで、当たると死んじゃいそうだったから死なないようにちゃんと避けましたけどね」
 避けられた弾丸は森の中の木にぶつかってはじける。サイレンサーもつけずに一般拳銃をぶちかましたので銃声が響く。
「避けてる時点で普通じゃないから安心しておけ。それにオレが撃つのはお前だけだ」
「あれ? それって結構、愛の告白っぽくてかっこいいですよ龍花さん。「お前の心はオレが撃つ!」みたいなセリフ、龍花さんなら言いそう・・・ああもういきなり撃ってこないで下さいよー。と、まあそんなところでさっき聞いた話の答えをもらってないんですが龍花さんって彼女いるんでしたっけ?」
「テメェに言う必要は無い」
「あ、もしかして明日香さんとかですか?」
 ヒュッ。トスッ。
 何の音がしたかと思えば、ナイフが風を切る音と、そのナイフが洸への頭蓋骨に突き立つ音だった。
「こーへー? どうやらあたしにも殺されたいみたいね?」
 激怒寸前の明日香が洸平に近づいて、刺さったナイフを抜き取る。そして、声を荒げて怒鳴った。
「っ、どうしてそういうことになるわけっ!? 大体そんな話する必要ないでしょ! トラの彼女なんているわけないんだからしたって無駄! だからしなくていいの! 分かった!?」
 あまりの剣幕に起こられてるはずじゃないオレすらも恐怖を感じてたというのに、洸平はそれを間近に聞いたはずなのに何故か余裕な顔をしている。
「じゃあとりあえず分かったことにしておきます」
 にこっ、って笑った所でその笑顔は確実に場の空気を悪くしているということにこいつは気付かないのか? いや、気付いていてその上でやってるに違いない。最悪だ。

 まあそんなどうでもいいことを話しながら、乙達は研究所に一歩一歩近づいていく。

          *     *     *

「目標、あと10分ほどで到着します」
 小夜歌の声が室内に響いた。
 緊張した空気になるかと思ったが、意外に普通な空気に軽く拍子抜けする小夜歌。ちょっと考えれば、このメンバーでそんな空気になることが珍しいということに気付いただろうに。と寸前までの考えを自己否定する。
 部屋の中にいるのは4人。高山、小夜歌、小鳥、そして局長。木雨は円形の水槽が多数設置されている研究室にこもっている。たしか水槽内で体組織の回復をしていたはずだ。そろそろ終わるころだと思うのだが・・・。
「じゃーあたしがいくー」
 そんななか、一人場違いな声で小鳥が言ったのだが、それに猛烈に反対の声があがる。
「小鳥ちゃんに行かせるぐらいだったら僕が行ってあげるよ。だからここで待ってなさい。そんな危ないことしちゃだめでしょ」
 更沢が大きな声で小鳥に言い聞かせるように言う。
「えーいいじゃんいいじゃんー。私がいきたいー!」
 だだをこねるように言う小鳥を前に、更沢は再び説得する。
「危ないことは僕に任せて小鳥ちゃんは休んでなさい。それが一番いいよ」
 更沢が熱弁を振るっている最中、小夜歌が一言。
「・・・別に行っても良いんじゃないでしょうか?」
「え、いいのか小夜歌」
 最初に反応したのは高山。しかし激しく反応したのは更沢。
「な、なんだと小夜歌君! いくら小夜歌くんでもそれは横暴だぞ!」
「ロリコンは黙っていてください。論理的な思考をしますと、とりあえず、小鳥だけで十分ではないでしょうか」
「根拠は!? 根拠がないなら僕の小鳥は連れて行かせないぞ!」
「だから黙っていてください局長! 本当のところを言うと、彼女の願いというか要求を聞いてあげたいというのが一点。それに普通の人間なら小鳥の容姿を見ただけで油断します。相手を納得させやすいですし、局長が言うように一般人ならばそのまま記憶改竄装置を使用してしまってよろしいんじゃないでしょうか。そのことが一点。あとは、彼女の純粋な戦闘能力です。まさか彼女の力を忘れたわけではありませんよね?」
「いやさー。でもねー。小夜歌君。あの中に小鳥じゃ絶対にどうにも出来ない人が二人ぐらいいるんだがそれでも君は小鳥ちゃんを行かせると言うのかい?」
「きょ、局長! どういうことですかそれは! 一般人って行ったのは局長でしょう!!」
「ああ、あれ嘘」
 なんの悪気もないような声で、しれっととぼける更沢。
「なっ・・・!」
「いやさー、ほら小夜歌くんいきなり殺すとか言うからさ。あんまり僕はそういう言葉を君から聞きたくなかったんだよね」
「・・・って局長? まさか・・・それだけのために隠してたんですか?」
「うん。まあそういうことになるね」
「あああああもうあなたって人は局長!」
「まあそういうことで僕が行ってあげようということなのだが不安かな? 小夜歌君」
「もう・・・。そういうことでしたら仕方ありません。局長に全て頼むことにします。小鳥ちゃん、じゃあここで待ってなさ・・・、局長・・・。小鳥ちゃんはどこですか?」
「ああ、今さっき二人が喋り捲ってた横を通って、外に出てったよ。第二玄関から外に出ようとしてるんじゃない?」
「ああああ!! 高山あああぁぁぁぁ!! なんてことをしてくれたんだ! 止めろよ! 止めてくれよ!! それがお前に今出来ることの全てだろう!?」
「いやもう局長が言ってることが意味わからないんだが。あ、もう進入されてるぞ」
「ああもう!! 高山までボケないでください! 緊急事態ですよ! 木雨を起こしなさい!!」
「はいはい。やっときますよ」
「たァァ! かぁぁ! やぁぁぁ! まぁぁぁあああぁぁぁ!!」
「局長わかったから。あんたもさっさと防刃ジャケットでも何でも羽織れよ。戦闘準備だ戦闘準備」
「あー。小鳥よー、無事でいてくれよー。頼むからなー。頼むからな-!」
「いい加減うるさいですロリコン局長」
 再びバインダーの攻撃で局長を黙らせ、小夜歌は部屋を出る。そして中に残されたのは高山と更沢。
「・・・局長。・・・大丈夫なのか?」
「ダメかもしれないな?」
「ダメなら逃げないのか? 生きることが最優先って言ってただろ」
「逃げたら何か変わると思うかのかな? 君は」
「・・・・・・いや、何も変わらないな」
「まぁ、そういうことだ」
「・・・そういうことか」

 二人して、ひとつのライターで煙草の火をつけ、そのまま二人はしばらく煙草をふかしていた。


          *     *     *

 到着した。
 入り口はひとつ。流石にカモフラージュされてるだろうと思いきや全然普通の建物だった。まあこんな山奥になければの話だが。
 ここまで道という道はなく、そこらへんの獣道の様なところを歩いてきているので、正直この研究所についたのも奇跡みたいなものだ。ただキノさんについてっただけなんだが。
 ドアは鍵がかかってると思いきや、なんか明日香が思いっきり蹴ってぶち開けてた。怖い。純粋にあの蹴りは受けたくないと思った。そのくらい半端じゃないパワーで、ドアがへこんで鍵がねじれて向こう側にぶち倒れた。顔色一つ変えずにその動作を行っているって言うのがまた凄い。
 そしてそんなことはまったく気にせず中に入っていこうとする残り二人。洸平とキノさん。
 だが俺はここで、しなきゃならないことを思い出して中に入る前に中断する。
「あ、俺ちょっと用事あるんで。先行っててくれるか?」
 いきなり龍花が言い始めたので、明日香が猛反論。
「トラ、怖くなったからって逃げてんじゃないわよ。さっさとこっち来なさい!」
「いやちょっとトイレに行きたくなったんだが、中の人がトイレなんか入れてくれるかなーなんて思ったからそこら辺で立ちショ・・・はいはいすみませんでしたこれ以上はいいませんはいっ!」
「トラがそういうことに無頓着なことはよくわかったからさっさと行ってきなさい。あんたが来たころには全部終わらせといてあげるわよ!」
 ふんっ。と言い残して明日香は先に建物の中に入っていく。
「じゃあ先に行ってますので。龍花さんはあとからしっかりついてきてくださいね」
 そして洸平と乙は明日香の後を追い、中に入っていく。
 残された俺。
 一人でこの暗い森の中にいるのは結構怖いものがあるが、まあたいして注意することなどないだろうから気にしない。
「さ、て。ちゃっちゃとやってしまいますか」
 無論明日香にいった言い訳は嘘。普通に電話したかっただけだし、その内容を聞かれたくなかったからだ。
 衛星電話を使ってある人物に電話をかける。
 ―――――――。
 コールは1度で出た。
『何?』
 聞こえてきた声の持ち主は鈴木春香。昨日、三鷹の調査を俺が依頼していた彼女だ。もっと詳しく言えば、5000円のラーメンと餃子とケーキバイキングををおごらなくてはいけない相手でもある。
 彼女に頼んでいた三鷹の身辺調査の途中状況を知ろうと、電話をかけたわけだ。
「たしか明後日に聞けって言ってたけどもう12時だし、大丈夫だよな?」
『せっかちだなあ龍花くんは。まあ教えてあげるけどね。何でそんなに急いでるの?』
「いや、ただあいつがいつ出てくるか・・・じゃなかった。いや違うんだよ。えーっと」
 流石にストーカー行為を行われてるとは言えないよなあ。言ったらなんか結局ネタにされるし。
「とっ、とにかく。早く知りたかったんだよ!」
『まあ別に良いけどね。むしろ学校で聞いてきたんじゃなくてよかったと思うよ』
「えっそれはどういう・・・」

 ガサッ。

「―――ッ!」
 後ろで何か動物が、いや誰かが草を踏むような音が聞こえた。
 クソっ、所員に気付かれたか? まさか、警備員か? つか今気づいたが、警備員が独りもいないってのはどういうことだ? 誰だ? 一体・・・。

『どういうことかって言うとね』

 ガサッ。

 さっきより少し大きな音がする。
 一歩一歩確実に進んでるようだ。音の大きさから言って、あと十五メートルぐらいか。わからない。月のない夜の周囲は暗く、研究所からもたいした光量が出ていないので、付近は暗い。
 その中で敵と思しき人物が近づいてくる音だけがする。

『その三鷹って人の調査をしてて』

 ガサッ。

 音のなる方に目を凝らす。森の中にある人影は、人影としてしか判別できず、輪郭しかわからない。
 影だけの人間を見分けるなど不可能だが、少なくとも女性ではない。

『辿り着いた人がね』

 ザッ。

 森から建物周辺の少しだけ開けた場所に出てきたその人物は、わずかな、本当にわずかな月明かりに照らされて、その顔を、姿をあらわにした。
 その姿はどこからどう見ても。

『田中君だったんだよ。君の後ろの席の』


「やあ、元気にしていたかね、龍花君。君にこの姿で会うのは実に一日と8時間ぶりだね。君にこんなところで出会えて光栄だよ。まさに奇跡といってもいい。どうかね? 君は楽しいかな龍花君。人間楽しいときが一番輝いて美しく見えるのだよ。だから笑っていたまえ龍花君。驚いているようだが、混乱しているときこそ慎重にならなくてはいけないな。この姿はなかなか私も気に入っているのだが、君はどうかね? ―――ハナちゃん?」

 声を最後の部分だけ変え、本当の田中の声になる。田中の姿をしながら三鷹の声でしゃべる人間に戸惑いを隠せなかった龍花だったが、長話を聞いているうちになんとか気持ちを落ち着かせることが出来た。
 そして、しばらく黙ってしまってた衛星電話にむかってしゃべる。もちろん、視線は三鷹から話さずに。
「ありがとうな。また何かあったら頼むわ」
『そのときはまた何か報酬を頼むわよ』
「OKだ。じゃあな」
『じゃあねー』
 ピッ。
 さて、どうしたものか。携帯をしまいながら考える。未だ敵なのかミカタなのかどっちでもないのかすらもわからない状態のこいつに、どういう対応をして良いのか悩む。
 悩んだので、とりあえずナイフを投げてみた。
「うわっ、危ないなあ龍花君」
 その姿のまま三鷹の声で対応されると困る。とりあえず、さっきナイフを投げる前にすることがあったことを思い出し、とりあえず聞いてみる。
「お前は・・・、どっちが本物なんだ?」
「うーん、本物か偽者かで区別するのは美しくないと私は言いたいのだがね」
 そう言うと三鷹は一回転する。その動作をした瞬間、一瞬にして『三鷹』に「なった」。一回転し終わった後にちゃんとポーズを決めるのも忘れない。
「この姿が本物と言えるのではないかな。やはり一番多く見せている姿が本物と言っても過言ではないのではないかと私は考えるんでね」
 その言葉を聞いているとまるで自分の姿を忘れてしまった吸血鬼のような口ぶりだが。
「まあいいだろ。その能力は何か聞いておきたいが、自分の能力をばらす様な馬鹿は―――」
 いないだろうな、と言いかけたところでいきなりばらすのは馬鹿だと思うんだが俺に賛成する人はこの馬鹿を馬鹿と読んで良いぞお前ら。
「私の能力は第三種の幻覚能力だ。相手に思うがままの幻覚を見せることが出来る。君がさっきまで見ていたあのすがたも幻覚なのだ」
「・・・勝手にしゃべってくれるのはありがたいが・・・。まあとにかく、じゃあ今の姿が本物っていうことか?」
「そういうことでもないのだがね。これも見せているのは幻覚と言うことになる。何しろ発動条件が目と目があったらと言うことなので、どこまでもいくらでも幻覚を見せられると言うことなのだよ。美しいとは思わないか? 目と目で見詰め合った瞬間その相手が変わってしまう。まるで魔女の呪いのようにそれこそ・・・」
 いい加減話が長引くのはうざったく思ってきた。
「はいはいもういいからいいから。結局、」

「てめぇは殺していいのか?」

 場の空気を凍らせようと発した言葉は、三鷹にはまったく効かなかった
「ダメだよ龍花くん殺すなんて単語を軽々しく使っちゃ。それ以前にまだ美しさの極地に達していない君が僕に勝てると思うのかね?」
「いいから答えとけよ。・・・別にホントに殺そうってわけじゃない。敵か味方か判断したかっただけだ」
「敵か味方か、その曖昧な両者に線を引くのは難しいのが承知の上だが―――」
「能書きは良いから早く」
「せっかちだな。美しくない。だ、が、まあいいだろう。私は今のところは味方だ」
「何を根拠にそんなこと・・・」
 そして三鷹は後ろを指差し、
「少なくとも。・・・彼女がいなくなるまでは、の話なのだがね」
「彼女?」
 三鷹の指差す方向。
 三鷹の後ろ、つまり三鷹をはさんで向こう側を見てみると、そこには。
 ―――中学生ぐらいの女の子が、研究者が使うような白衣を着て立っていた。
「・・・・・・え、えっと」
 ・・・・・・。
「・・・・・・え? 彼女?」
 戸惑っている間に
「やっと追いついたかね。少女。君がのんびりしているのでこちらは仲間を呼んできてしまったよ。では行こうか龍花君。彼女は手強いぞ! そして美しいぞ!!」
 その少女の目は光を反射しているようには見えず、口を閉ざし、静かにこちらを見ていたが、
 一瞬。
 突然何かが光ったかと思うと、高速で小さな物体が飛んできた。
 慌てて持っていた携帯をかざしてガードすると、そこには、小さいガラスの破片が刺さっていた。

 そして少女は走り出す。

  1. 1990/01/04(木) 01:06:00|
  2. 創作小説
  3. | コメント:0
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