電撃文庫と堕落生活*でんだら*

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【ConceCt】第2話 トレーニング

  第2話 トレーニング

 その後の授業及び休み時間などは全く問題なく進んだ。
 ただいま昼休み。弁当を食って、一通り場を盛り上げて、眠くなったので自分の机で突っ伏しながら思考遊び。
 今までずっとひっかっかってきたのは、あれだけの音や衝撃があったはずなのに、誰も聞いていないということだった。
 別に聞こえてないこと自体は不思議でもなんでもなくて、誰かが物理的、もしくは精神的に障壁、または結界を張っていたと考えれば納得がいく。しかしその場合、三鷹には仲間がいるということになる。
 基本的に能力者の能力は、種数は超えても一系統のものに限られる。
 つまり、第四種能力である水の発現と第参種能力である水の遠隔操作を同時に行うことが出来ても、それと同時に催眠や肉体活性などのことは出来ない。
 とすれば、三鷹は火炎系統。結界や催眠の能力はないはず。ここから考えれば仲間は最低でも一人、もしかすればもっといるかもしれないのである。
「…………………………めんどくせぇ」
 ついつい声にでてしまう。学校だと武器が持ち込みにくいので再び戦闘になった場合、今度も逃げ切れる自信はない。
「当分学校休むかなぁ」
 そうすれば武器も使えるし、学校の人々を心配せずにすむ。武器の問題よりも、むしろ後者のほうが龍花としては気が楽になる。
 と、窓から入ってくる光が遮られる。横に誰かが来たのだろうか。
「なに? なになに? ハナちゃん休むの? もしかしてサボり? それよりこんなとこでバラしていいの? っていうかなに? 公式発表? 沖山龍花、学校サボり宣言?」
 田中だった。ハスキーなかん高い声で詰問してくる。独り言を聞いてたのか。暇なやつだ。
 すると今度は反対側から女子の声が聞こえてきた。
「え? 沖山君学校サボるの?」
「もしかして彼女?」
「では朝のもラブレターですか?」
「学校サボってデート? すっごーい!」
 いつのまにかいた女子四馬鹿トリオも逆サイドから口を出してくる。
 女子四馬鹿トリオとは、鈴木春香、高橋夏樹、佐藤秋江、渡辺冬美という絶対に何かの陰謀が働いたとしか思えない名前の四人組だ。ちなみにオレは誰が誰だかわからない。覚える気はない。最初は三人だったらしいが、二年生になりひとり増えて四人になったらしい。なぜかトリオという名前はいまだに残っている。っていうか絶対に4人でトリオはおかしいだろ。
 全員テンションが高い。噂話が好物。情報収集能力に優れ、金さえ払えば個人情報垂れ流し。おそらく情報面では校内一の危険人物。これ以上かってに喋らすと、究極的に危険なことがおきそうだ。本気で学校に来たくなくなるかもしれない。
 とりあえず顔をあげる。
「そこの四馬鹿はちょっとそこで待ってろ。それ以上展開を進めるな。そして田中はこっちだ!」
 田中の頭頂部を掴んで教室の角にいく。
「痛いいたいイタイ! なに? なに? ハナちゃん、なに? ぼくそんな趣味ないよ! きゃー、たすけてー(棒読み)」
 教室の隅に到着。田中に攻撃。がしがし蹴りながら問いつめる。
「おいふざけんなてめぇ。なんなんだ? なぜいつのまにやら手紙の話がだだもれなのですか? なんか納得いく説明してもらわないとオレの右手が貴様の顔と熱い再開を果たしちゃうぞ。血と涙の再開だ」
「わかった! 頼む。頼むから、拳と顔面仲良くしちゃダメ! ダメダメ。むしろ絶交! 磁石のSとSだから。な! な! 教えるから!」
「素直でよろしい」
 蹴るのもちょっとやめてやる。
「まったく、ノリが悪いんだから………すみません! イタイいたい! はい! ごめんなさい! 売りました! 親友と書いて『とも』とよぶような関係のハナちゃん売りました。ごめんなさい!」
「で? いくらだ?」
「……………………………」
 田中は指を一本立てた。
「なんだ?」
「…………………今日の昼飯……一食……ぶん……」
 がしがし、どかっ、、がしがしどこ、がしがしがしがし…………。
「ちがっ! それだけじゃなくて!」
 いったん手を止める。
「何が違う?」
「だからそのかわりに、次回御利用の際は半額っていうことぎゃめぎぱりゃ……」
 がしがしがしがしがし  がし、がしがし    がし………。
「けど! けどぉ!」
 もう一回手を止める。
「ん?」
「……ハナちゃんもそこまでムキになるってことは、…………ホントにラブぎゃああああ…」
 がしどがっ ぼくぼく げしげしがし………がしどかどかがし…。
 一通り終わって机に戻る。田中は部屋の片隅で死んでいる。
「で、四姉妹」
「だから姉妹じゃないって前からいってるでしょ」
「いーじゃんそんな、どうせ姉妹みたいなもんなんだから。そんなことよりさっきの話なんだけど」
「噂を流すのを止めてほしいんですね、そしたら、そうですね……嬉助食堂のラーメンでどうですか?」
 嬉助食堂はうまいと評判の中華食堂で、ラーメンはたしか五百円だったか。まあそれくらいなら、と思ってうなずくと、
「よっしゃー交渉成立ぅ! じゃあ今度おごってもらうから、ちゃんと二千円プラス税、もってくること!」
「え? なに? 四人分?」
「もちろんでしょ。あ、そうだ。あと餃子も四つね!」
「ヲイヲイ、マジかよ………」
 餃子はたしか二百五十円。となると、五千円。これは痛い。とてつもなく痛いが、我慢せねばなるまい。こいつらを野放しにしておくと絶対に噂話のレベルではすまなくなる。いまさら誤解を解こうと思ったところで、それを立証するには先ほどの戦闘についても言わなきゃならなくなる。あの人間がオレと同じ種族だとは思えない。多分どこかの異星人だろう。
 まあ、いっか。今度キノさんに給料前借りしよう。
「わかった。じゃあまた今度な。いつになるかは未定だ。それと噂はしっかり止めとけよ」
「わかってるてば。じゃーねー」
 手を振りながら自分の席に戻っていく四人。
「あ、ちょいまち」
「なに?」
 四人の中で一番髪の短い女子が振り向いた。
「三鷹智則っていう男を調べてほしいんだけど」
「誰それ?」
 言うとその四人の内の一人の女子は、メモ帳を取り出して書き込んでいく。
「オレもよくわからん。二十歳……は超えてる……か? わからん。とりあえず若かった。背は高くて、ああ、百九十はあったかな。あと眼鏡をかけてて、顔は美形っぽい……かな?」
 さらさらと滑らかに女子のペンが走る。
「特徴ってそれだけ?」
「それと一番大事なのが、口癖が『美しい』で、一人称が『私』。なんか美しいことを追求しているとか言ってた。見た目と性格のギャップが激しすぎる変なやつだ。……っと、こんなもんだ。また思い出したら教えるわ」
「じゃあこれで調べてみるね。報酬にケーキバイキング追加ということで。駅前のやつ。もちろん四人分」
「……あああああ、また多大な支出が。ところであなた様のお名前をお教えいただけませぬか?」
「あれ? 知らなかった? 私は鈴木春香。ハルでいいよ。じゃあね」
 かるーくいうと、また戻っていった。
「あいつが春香……」
 覚えておこう。次忘れるのはさすがに失礼だ。まあ他のやつは覚えてないので変わらないが。
 ………………それより、
「…………………………前借りぐらいで足りるかな?」
 オレのつぶやきに答えるようにちょうどチャイムが鳴った。
 教室の片隅で田中はまだ死んでいる。ざまぁ。
 よし、ラーメンと餃子はあいつ持ちにしてやろう。
 決めた。

          *     *     *

 下校時刻。
 ついさっきまでオレンジ色だった空を藍色が支配している。星はまだほとんど見えないが、月だけはしっかりとその姿を表わしている。
「おい、まだ落ち込んでるのか?」
 オレは田中と一緒に下校中。隣の田中は猫背になってとぼとぼ歩いている。
「だってハナちゃんがいじめたんだもん。ぼくかなしいニャン」
「なんの脈略もなく無気味なキャラ付けすんな。気色悪い」
 目を擦りながら歩く(泣きまねのつもりか?)田中を軽く流して少し歩くペースを速める。
 ふっ、と田中は唐突に普通になった。
「結局ホントはなんだったんだ? あの手紙。呼び出されたんだろ」
「いやオレに聞かれても困る。むしろオレが聞きたい」
 本当にわけがわからなかった。結局なんだったんだ?
 と思っていると、噂をすればなんとやら、その三鷹が横断歩道の反対側にいた。待ち伏せていたらしく、こちらをじっと見ている。信号は赤。しかし横の歩行者信号はすでに点滅している。
 笑顔だ。やばい。
 本能的に危険を感じた龍花は、即座に行動を起こした。
「あ、そうだそうだ、買い物があったんだ。じゃあな田中! なんか話の途中ですまんがここでお別れだ。それではまた明日会おうぅぅ!」
「なに? ハナちゃんどしたの? ちょっと待ってよ! え、なに?」
 わけがわからなくなっている田中をおいて走った。ちらっと逆の歩道を見ると三鷹も走っている。そのまま数分走り、少し細い住宅地的なところに入っていく。
 追い付いた三鷹が話しかけてきた。
「やあ龍花君。今日君に会うのは二度目だね」
「今日と限らなくても二度目だ」
 なんとなく言い返す。
「まあそんな細かいことは気にするな。細かいところばかりに気がいっていると美しくはなれないぞ」
「なる気ないし」
「はっはっはっは! では早速始めようか!」
 おいおい、いきなりかよ。まあ別に今回は戦う気ないからいいんだけど。
「いいけど、背中になんかついてるよ。なんかめちゃくちゃ汚い感じのやつ。放っといてイイの?」
 もちろん嘘だが三鷹は本気にした。コイツは本物の馬鹿ではないか?
「なにっ!? なんだそれは? どこだ! どこにある! そんなのがついていたら醜いではないか! 美しくないではないか! おい、龍花君。どこにあるのかね? とってはくれまいか? おや? 龍花君? おい龍花君? いないのかね? 龍花君! ………はっ! もしや……………、私のために洗剤を持ってきてくれようとしてくれているのか? 優しい、なんて優しいのだ龍花君! いや、もはやこれは美しいといても過言ではない! なんて美しいんだ龍花君。これぞまさにライバル愛! それでは私は君の行為に甘んじるとしよう! ここで君を待っていよう! いつまででも待っていようではないか!」
 三鷹智則は道路脇で腰を下ろし、龍花との再開時の、熱い抱擁のイメージトレーニングを始めた。ボディランゲージ付きで。
 十五分後、付近の住人に通報されやってきた警官に両脇を捕まれ、補導されていった。

          *     *     *

 もちろん龍花は三鷹が考えていた行動などするはずもなく、当たり前のように逃げていた。あのあと田中に謝ろうと思ったのだが、結局会えないまま、そんなこんなで事務所(兼自宅)に帰ってきていた。
 オフィスデスクが四つある事務室に入る。部屋を掃除するという行動を起こす奇特な人間はこの中に龍花一人しかいないので、必然的に朝と全く変わらない状態か、それより悪化した状態の部屋になる。わかってはいるが再確認して少し鬱になる。
 乙はいつものように窓際の自分の席で本をよんでいる。外国語で書かれているらしく、この前見せてもらったが全く読めなかった。
 明日香は乙から見て左前の席で左手でポテチをチョビチョビ食いながら、ラジオを聞きながら、競馬新聞をよみながら、何か手帳のようなものにメモをしている。なにかデータでもとってるんだろう。これまたいつものことだ。
 洸平は明日香の真正面の席だ。何をしているかというと、無駄なことをしているとしか言い様がない。刃渡り十センチほどのナイフを三本使ってジャグリングをしている。うめぇ。無駄に上手い。机の上には同じナイフがあと三本ほどある。というかそれより、
「なにしてんだよ。危ねえだろうが」
「あ、龍花さんお帰りなさい。なんかいつもと変わらず楽しそうですね。なにかいいことでもあったんですか?」
「いつもと変わらないなら何もなくても変わらないだろう、というツッコミはおいておくとして、その危険な遊戯を今すぐ即刻早急にやめろ」
 洸平はそんな言葉は聞いていないかのように、そのままじゃグリングを続ける。視線はこっちに向いているのにいっこうに落とす気配もない。なんかもうプロ級。
「どうしたんですか? なんかいつもと比べて楽しく無さそうですよ。なんかやなことあったんですか?」
「さっきと言ってることが正反対だが、いやなことがあったのは確かだとだけ伝えておこう。その中の8割は『お前の存在』という項目で埋まっていると言うことも一応伝えておく」
 そういってオレは机の上のナイフをとり、洸平の手の中で回っているナイフも取ろうとしたが、危険だったのでやめて、言う。
「それを渡せ。もしくは死ね。できれば両方。無理なら後者」
「とりあえずこれだけ渡しときます」
「結構」
 オレの手の中には洸平から取ったナイフが6本。ふと違和感。
「なあ、なんでこれだけちょっと黒ずんでるんだ?」
 手の中で一本だけ他のと比べてグリップの色が濃いものがあった。
「ああ、それですか。今日少し使ったんですけど、血がなかなか落ちなかったのでそのままだったんですよ。あ、今思い付いたんですけど、それだけ違う色なのもなんか変ですから、他の五本も血で染めません? 龍花さんので」
「その『少数にその他全てを合わせる』っていう、それこそ少数派意見は改めた方がいいと思うが?」
「やっぱり、同じ人の血液のほうが同じ色がでますかねぇ」
「聞いてねエし。……それよりそんなことしてるぐらい暇だったら手伝ってほしいことがあるんだが」
「すみません。いまちょっと呼吸に忙しくて手が放せないんですけど」
「頭頂部に覗き穴ができるのと、頭部と胴体の永遠の別れとどっちがいい?」
「安易なオルタナティブはよくないですよ龍花さん。はは、構えないでくださいよ。やだなあ、冗談ですってば。で、何処に行くんですか?」
「武器の手入れ。先に行ってるからそのナイフを洗ってからこい」
 洸平が「わっかりました」といって水道のところにいこうとすると、キノさんが喋った。
「仕事が入った。十時に出発する」
 その言葉に最初に反応したのは明日香だった。
「うえぇぇぇぇ~、また夜中ぁ?」
 何でそんなにいろんなこと(左手でポテチをチョビチョビ食いながら、ラジオを聞きながら、競馬新聞をよみながら、何か手帳のようなものにメモをする)してるのに、話が聞こえてるんだよ。と、言いたかったが、明日香に言っても全く無意味なのでそのセリフは口の中で消える。
「わっかりましたぁ」と、また洸平が言って、話は終わった。
 早く下に行って、明日持っていくものを考えよう。あとちょっと練習だな。考えて地下にある武器庫に向って階段を降りていった。
 少し遅れて洸平が階段を降りた。

          *     *     *

 乙探偵事務所の地下には、体育館ほどの広さの戦闘訓練室と、体育倉庫ぐらいの広さの武器庫がある。
 広い部屋の中で、洸平と龍花が向かい合って立っていた。
 洸平は両手で、身長より少し短い黒杖を構えており、龍花は両手に一丁ずつ、黒い自動拳銃を持っている。コイルガンではないその銃の弾は実弾であり、人間を殺傷する能力を十分に持っている。
 二人の距離は三十メートル。洸平の黒杖では届くはずもなく、龍花の腕では射程圏内に入っている。
 すうっ、と。
 洸平の足が滑るように動いたのがはじまりの合図となった。
 その足の動きと同時に、重なりあった六発の銃声が鳴る。
 龍花による両手三発ずつの高速連続射撃(クイックロッド)。
 しかし百分の一秒の間も開けずに重なりあった六回の金属音が鳴る。洸平の黒杖が吸い寄せられるように全ての射線に滑り込み、弾丸を弾き飛ばした。
 その人間業とは思えない行為にも全く怯まずに龍花も駆け出す。銃によるリーチ差の有利など関係ないとでもいいたげに、全速力で龍花は疾る。
 最短距離をなめるように滑る洸平の姿は一見普通のように見えるが、龍花との距離は見る見る内に縮まっていく。それに対し龍花の直線的な動きは鋭く、洸平のスピードと相まって二人の距離は二秒と経たないうちにゼロになる。
 二人が交差するまでに放たれた銃弾は最初の六発を含め全部で三十二発。同じく聞こえてくる金属音も同数。
 全てを叩き落とした洸平も神業なら、洸平のつかみ所のない動きに合わせ、全ての弾ををたたき落とさざるを得ない位置にピンポイントで合わせる龍花も神業と言える。
 密着したゼロ距離で繰り出される洸平の攻撃。至近距離では使い物にならないようにも見える長い黒杖を器用に操り龍花に攻撃を繰り出す。
 龍花はその初撃を右手の銃の銃口で受け止め、間を開けずにトリガーを引く。飛び出た弾丸はしかし黒杖を掠めるに留まった。
 洸平がその直前に黒杖をずらし衝撃を回避している。そのまま流れるような二度目のなぎ払いが龍花に襲い掛かる。
 しかしその先には左手の中にある龍花の銃の銃口が待ち構えていた。
 耳を突き破るような銃声が鳴り響き、音速を超えた弾丸が黒杖を押し戻す。それと同時に、龍花は右手の銃を再び発射。
 これをあらかじめ予想していた洸平は、発射の瞬間に体をいれ替え弾丸を回避。その後飛び退こうとしたが、龍花の左手で再び鳴り響く銃声。それと同時に洸平は腹部に強い衝撃。
 その発射によって全弾撃ち尽くした龍花も後方へ飛翔。一分の隙も見せずにカートリッジを交換。
 十メートルの距離を開けて二人は再び対峙した。
 数秒後の洸平の腹部に残っているものは、服に開いた穴だけ。数センチの銃創などの再生は、洸平の再生能力にかかれば一秒とかからずに完全回復してしまう。
「ああ、これじゃあまた服を買わないといけませんね。けっこう気に入っていたんですけど」
「そんな服を着て闘うな。少しは考えろ。むしろ考えなくていいから死ね」
「いや、龍花さん相手だったら服に傷なんかつくぐらいの闘い方しなくてもいいかなあと思っていたんですけどね」
「そのじわじわくる皮肉を聞いてるとお前の性格を再確認できて、とても最悪な気分になる。よってお前のその認識を改めさせるためにあと二百コほど穴を開けてやるとしよう。その後死ね」
 そう言って、龍花は走り出した。
 
 ニ度目の接触。
 さきほどとはうって変わって聞こえてくるうちの大部分は金属音。銃声はときおりその間を縫うように聞こえる程度。
 ゼロ距離ではなく、手がギリギリ届くくらいの間合い。洸平にとっても龍花にとっても一番やりやすい距離だ。
 よって必然的に闘いは激しくなる。
 攻撃に移るために洸平が黒杖を限界まで引く。
 引いただけの加速をもって杖の先が龍花に迫るが、龍花は銃身によって流す。すかさず黒杖を引き、二度目、三度目の突き。
 全てをしのいだ龍花は反撃に出る。
 四度目の突きのために再び引かれた黒杖に合わせ一歩踏み込み、右手に持った銃のグリップによる殴打を洸平の右側頭部に打ち込む。
 頭を引いて避けようとする洸平。
 しかし銃は本来は鈍器としてではなく銃器として使用するものであるということを龍花は忘れていない。
 龍花の手の流れは、そのまま洸平の顔面に銃口を向ける結果となった。正しくは、そのように龍花が仕向けた。
 銃声。
 咄嗟に避けた洸平の耳を抉りとって銃弾は進み、背後の壁にめり込む。コンクリートと銃弾の衝撃音が聞こえる前に龍花は再び顔面にむかって発砲。さらに死角に入っている左手でも腹部にむかって三連続のクイックロッド。
 前者は洸平の耳をさらに抉り、後者は一発を黒杖でしのがれたが、残りの二発はしっかりと命中。洸平の内蔵を巻き込んで後方に吹き飛ばす。
 攻撃の手を一瞬休めた洸平にむかって、さらに連射、連射、連射。
 至近距離での発砲に洸平が防げたのは右手の銃の分だけ。左手の銃の弾丸は全て体を貫通していた。洸平の後ろの床にはちぎれた肉と血液が散乱している。
 両手の拳銃にそれぞれ残り三発ずつ残したまま、龍花は衝撃でよろめく洸平に再び側頭部への打撃を見舞う。
 しっかりと右手に伝わる重い感触。
 頭蓋骨の軋む音と皮膚がえぐれる感触を感じる。
 決まった! と龍花が思った瞬間の油断を洸平は見逃さず、背後の死角から黒杖の一撃を放ち、龍花の背中を強く打ち付ける。
「っ!」
 龍花は衝撃でうめいたが、脳震盪を起こしてもおかしくないはずの衝撃をうけた洸平は、相変わらず微笑を浮かべたままである。その目は「まだまだ終わりじゃありませんよ」と語っていた。
 その言葉(?)どおりに、黒杖の一撃に連続して、杖を持っていない方の拳が腹に飛んできた。咄嗟に銃身で防ぐが十分ではなく、拳銃の堅い感触を腹部に味わう。さらに襲い来る黒杖を、逆の銃で受け止め、流す。
 後方飛翔して体勢を立て直そうとするが、話した距離と同じ分だけ洸平が歩み寄ってくるために距離をとることが出来ない。
 すでに全ての傷が回復した洸平の猛攻が始まった。
 ガガガガガガガガガガガガガガ………………、
 延々と続いていくかとも思える金属の協奏曲。それにあわせるかのように、踊るように攻撃を繰り出す洸平。
 振り下ろし、突き、逆袈裟、三段突き、振り上げ、下段斬り、上段突き、振り下ろし、足払い、突きのフェイント、黒杖を回転させて逆側による突き、なぎ払い、高速の三連続斬り…………。
 右から、左から、上から、下から、正面から、背後から。
 まとわりつく触手のようにうねる黒く長い杖。その合間に見える笑顔。それらを視界に収めながら、龍花は両手に収まっている金属の固まりを使ってなんとか攻撃を受け止め、流す。発砲する余裕は全くない。
 龍花は気がつけば壁を背にしていた。洸平の連撃を退きながら返していたため、だんだんと壁が近付いてきていたのだ。
 と、唐突に洸平の攻撃が止んだ。、
 予想していた衝撃をすっぽかされ、体勢を少しだけ崩してしまった龍花の顔の真正面から、黒杖が槍のように飛んでくる。
 投げるのかよっ!!
 全ての集中力をそこに使って間一髪で顔を横にずらした。
 その行為自体は成功し、なんとか黒杖は耳すれすれを通って背後のコンクリートに突き刺さった。
 しかし、
 視線を黒杖から前方に戻した刹那、眼前数ミリには洸平の左手の中指の爪が見えた。
 ぺちっ。
 でこぴんが一発決まり、緊張の糸が切れた龍花は壁をずるずると滑って座った。呼応して、赤みがかった2メートル近い髪の毛が床に散らばった。

          *     *     *

「っつー、なあ洸平よ。オレには全自動体細胞修復機とかないし、ちゃんと痛覚神経だって通ってるんだから、もうちょっと手加減してはくれませうか?」
 床に腰を下ろして龍花は休んでいる。
 今は痛む両手をぶらぶらさせるという科学的に何の根拠もない方法で痛みをとっている。
 洸平との戦闘訓練の時、黒杖の打撃を受け止めた手がとても痛い。
「本番と同じようにしなくちゃ、訓練の意味が無くなっちゃう、ってどっかで聞いたことがあったんでつい力だしちゃうんですよ。それに、それくらいはちゃんと受け止めてもらわないと困りますよ。ガナサイト合金の拳銃を使ってるんですから、それに見合った動きをしてもらわないと」
「うるさいだまれそして死ね。てめえの棒だって同じ素材だ馬鹿。そしてお前の動きは人間じゃないから追い付くのは死なないと無理。死ぬつもりはないから無理」
 ガナサイト合金と言うのは、洸平が乙探偵事務所の所員となって初めてやった任務の時に報酬としてもらった金属だ。
『一度固体になったこの金属は、その後の温度変化によって一切変化せず、さらに、どんな状況でも硬化した状態を保ち続ける』という性質をもっているらしいのだが。
 こいつのすごいところは、ただでさえ堅いのに、中に混入されている微細機械によって、傷付いてもすぐに元に戻ると言う、自己再生能力をもった金属だというところである。(っていうかそれって金属なの?)
 これによって洸平の黒杖は曲がらず折れず傷つかず、オレの二丁拳銃も洸平の打撃にたえることが出来るようになった。
 しかし堅いものをもっているからといって、衝撃がなくなるわけでもない。手でもっているからには手に衝撃が来るのは当たり前。
「お前が死ねばそっちの戦闘力はゼロ。生きてれば少なくとも一以上だからオレの勝ち。この結論を導くために潔く死んでくれ」
「すみませんねえ龍花さん。どうすれば死ねるのか知らないので死ねません。あ、そうだ。龍花さんと一緒にサリンが充満してる部屋に入れば死ねるかもしれません。どうですか? 早速試してみましょうか?」
 下らない言い合いはめんどくさくなったのでオレが黙ってオレの負け。負けても失うものは安っぽいプライドだけなので別に気にしない。
「…………で、どうだった?」
「七十点ぐらいですかね。やっぱり利き手じゃないぶん、左手の反応速度が少し落ちてますね。手がまだ痛いのは衝撃の吸収がうまくいってないせいです。さっきの『このくらいは』っていうのは本当ですし、今ぐらいのだったら当てるだけじゃなくて、引いて衝撃をやわらげる動作をいれるようにしないと」
「無理だろ。というか今のが限界だ」
「じゃあ限界を超えてください。それと僕以外だったら別にいいんですけど、僕は頭打たれても平気なんで、攻撃の時に隙をつくってると反撃しちゃいますよ。というかしましたけどね」
 右手にいまだに残っている骨と皮の感触を思い出す。
「あぁもう! てめぇを中心に考えるな! どう考えたってあれは脳震盪コース一直線だろうが!」
「そうですか? まあちょっと視界がぶれましたけど……」
「黙れそして死ね」
 龍花はそう言うと立ち上がって武器庫のほうに歩いていく。
 洸平はにっこりと微笑みながら後についていく。
 体育館についているような巨大な時計は六時を指していた。
  1. 1990/01/04(木) 01:02:00|
  2. 創作小説
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