電撃文庫と堕落生活*でんだら*

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【ConceCt】第1話 炎の転校生

  第1話 炎の転校生

 小春日和。
 ダイニングに入ってくるなり新聞を開き、椅子に腰掛け、その新聞を読みながら洸平はオレに話し掛けた。
「龍花さん。おはようございます。いやあ、雲一つないどこまでも広がる青空ってほんといい天気ですねぇ。
 まあ僕にとっては雨じゃなければ、曇りでも雪でもいい天気なんですけど、そんなのは僕から見た主観的なものなんで特にお気になさらないでください。いや、べつに龍花さんが雨の日をいい天気と言おうが、嵐の日をいい天気と言おうが、僕はそんなことでは態度を変えることはありませんので特に心配はしなくていいですよ」
「するか。死ね」
 洸平の無駄口は、もはや死んでも治らない。無意味な単語の連続には人間をイライラさせる成分でも入っているのか? 誰か調べてほしい。……自分でやれって? 知るか。オレはやらない。
「つれないですねぇ。せっかく挨拶したんだから『おはよう』ぐらい言ってもらってもバチは当らないと思うんですよ。思いませんか? まあ神様を信じないんだったらバチがあたるなんてことも気にしないとも思いますけど、やっぱり挨拶には挨拶を返すのが礼儀なんじゃないかと僕は思うわけですよ。それともあれですか? 僕はたった一言、挨拶もしてくれないほど龍花さんにひどいことをしたんですか? 僕の記憶の中にはそんなことは少しも残ってないんですけれども、もしそうだとしたら謝っといた方がいいこともないような気がしてならないので正確なところをどうか教えていただけたりするとありがたいのですが」
「した。よって死ね」
 おい神よ。
 なぜこいつに言語という高等なものを与えた? きまぐれとか言ったらオレが殺すぞ。いやむしろ自殺しろ。富士の樹海で。てめえのせいでオレがどんだけイライラするかわかってんのか? よく考えてから行動しろ、この無能神めが。
 と、意味不明な理論展開を頭の中で繰り広げながら、沖山龍花は朝飯をつくっていた。別にどうと言うことはない。ただの焼き魚と味噌汁とごはんとその他。
 出来た料理を机の上に並べる。四人分。
 まったく、なぜオレが料理なんぞしなければならんのだ。しかも純和食。……ああ、そういやそうだったかな。男女平等社会、たしかにそういう言葉もあったかもしれん。それはある。男だからって料理をしないのはよろしくないのはわかっている。いるが、……だからなんとオレは言いたい! 男は黙ってアウトドアクッキングだ! なぜ、和食などという、女のレパートリー必須科目をマスターしてしまってるんだ、オレは?
 ああ、わかってます! それもわかってますよ。原因はオレにあるんだから。ようするに、じゃんけんに負けちまったんだよこんちくしょーめが。あんな運とその場の雰囲気でいくらでも変わるような不確かな決定方法でその後全ての食事当番を決定するのはいささか問題があると思うが、オレも最初に同意してしまったので文句は言えない。
 そして、その時勝った三人と自分のためにこうして朝食の配膳を行っている。
 正方形のダイニングテーブルの一辺に一人ずつ座る。頂点に座ったり、一辺に複数人入るようなことは普通はしないので、必然的にそうなる。普通じゃないって言われればおしまいなんだけど。
 それからも聞こえてくる洸平の声にうんざりしてきて、毎朝のことながら洸平の味噌汁に味噌を当社比で二・五倍にしようか本気で悩んでいると、ダイニングの扉が開き明日香が入ってきた。
 高梨明日香。
 髪の毛は肩で切りそろえ、化粧は全くしていない。めんどくさいかららしい。それでも、十人男がいたら七・五人は振り返るほどの顔の持ち主なので全然問題はない。ただし声をかけた瞬間からそのイメージはもろくも崩れ去る。なぜなら性格に問題があるからだ。わがまま。ジコチュー。自分のことしか考えない。やりたい放題。洸平並みに喋る。そして暴力的。
 そんな極端な性格の明日香は、大きなあくびをしながら洸平に手をふる。
「ふあぁ。よく寝たわ。あ、おっはー森知君」
「おはようございます明日香さん」
 洸平は快く挨拶をする。オレはすこしイライラしていたので八つ当たり。
「つーかてめえ、寝たの四時だろ。よく寝たもなにもねえだろうが。なんか一般人と違うんじゃねえか?」
 まあたしかにオレ達は一般人とは違う。ちょっと違うところはあるが、その中に睡眠は特に関係はなかったと思う。
「うるさいわねえ。黙ってなさいよロン毛。私は寝てる時は他の人間と時間の進みかたが違うのよ。そうね、強いて言うなら<わたし時間>? だから少しだけでもたくさん寝てるの!」
「意味不明だからそこらへんでやめとけよ。いやむしろやめろ。オレにバカが伝染る」
「もともとバカな人間には伝染らないわよ」
「タイプが違うんだよ。オレはまともなバカ。カナはバカなバカ」
「まともでもバカはバカなんでしょ。どっちにしろ変わらないわよ。……って、ん? あれ? ちょっと待って。ってことはトラと私、同レベル? だめだめ。そう、そうよトラのほうがなんとなく頭使ってなさそうじゃない? だからトラの負けね。私の勝ちね。わかった? あーゆーおーけー?」
「あーゆーおーけー? って聞きてえのはこっちだ」
 トラなんて誰のことかと思うが、オレだ。寸分の狂いもなくオレだ。なんとも奇怪なあだ名をもったものだ。『え?あなた龍花っていうの?じゃあ龍だからドラゴンね。略してドラ!あ、でも言いにくいからトラね』という摩訶不可思議的理論により決まった名前がカナの中ではずっと使われている。<ドラ>からきてるので発音は動物の虎のほうじゃなくて、寅さんのトラの発音で呼ばれてる。
 オレが高梨明日香のことをカナと呼ぶのは、まあ仕返しみたいなもんで、高梨のまん中二文字をとって<カナ>になった。
 お互いバカだったと後悔してるが、それがそのまま使われ続けてしまっている。
「明日香。その時点で既に意味不明だ」 
 唐突に、明日香の後ろから乙が現れた。
 乙 一。年齢不詳。いつも黒い服を着ている男。女が十人いたら十人が振り返るほどの美貌の持ち主。ただし、常にサングラスをかけているのでその素顔がじかに見られることはほとんどない。部屋の中でもサングラスをかけている精神はどうかと思うが、ポリシーなんだろう。噂ではヘテロミクアらしい(どこの噂だよ!と突っ込みを入れたい)。
 一応全員揃ったので、食いはじめる。

「あ! おいちょっ、カナ! なにオレの分の魚とってんだよ!」
「なに? おいしいからに決まってるじゃない。いいじゃない。まったくケチなんだから」
 明日香は胸を張って言いやがる。言ってるあいだも自分の分の魚を食べてんのは器用と言うべきか。
 その横で洸平がぼそっとつぶやく。
「お前のものはオレのものって、ジャイアンニズム精神ですね」
 地獄耳の明日香が聞きつける。
「なんか言った? 洸平?」
「いいえ。特になにも言ってませんよ」
 笑顔で言われると嘘っぽく聞こえるのはオレだけだろうか?まあ嘘だろうが。
 そうこうしているうちに明日香が自分のを喰い終わり、オレの分の残りをを食おうとする。まったくもって油断ならん。
「おい、カナ」
「なに、トラ? もう返さないわよ」
 いぶかしみながらも、オレの反対側に魚を箸で遠ざけながら明日香は言った。そのセリフは無視し、オレは明日香の肩に手をおいて優しくさとすように言った。
「いいからもう喰うな」
「いやよ。これから……が…………」
 数秒、明日香は思考し、愕然とし、怒りながらこっちを向いた。
「トラ! こんなところで能力使うなんておかしいんじゃないの!? とっとと取り消しなさい。ずるいわよ! 汚いわよ! セコいわよ!」
「人のメシを食う方が数倍汚いわ、黙って返せ」
「いやっ。それだけはいやっ!」
「どうせ食えないんだから渡せ、渡すんだ、渡しなさい!三段活用!」
 うだうだやってると、洸平の声が聞こえてきた。
「ごちそうさまでした。おいしかったですね。……それより龍花さんももう時間ですよ。早くしないと遅くなりますよ。ってちょっと考えてみれば当たり前のことですけれど気にしないでください。それでは」
 洸平は去っていく。
 オレは時計を見て、「ぐわ~」といいながら悔しさいっぱいの顔で部屋に戻ろうとする。
「ちょっと、トラ! これ解除していきなさいよ!」
 オレは振り返り、一言。
「道連れだ」
 明日香の怒鳴り声が聞こえてきたが無視する事にした。
 


          *     *     *

 世界には特殊な能力をもった人間がいる。ちなみにオレ(沖山龍花)たち、(オレ、洸平、明日香、キノさん)も、その能力者の内に入っている。キノさんの話によると、日本には潜在者が十万人、発現者はその十%ほどいるらしい。ホントのところはよく知らない。
 それでも、そんな能力があったところで特に日常生活に影響はない。
 基本的に能力者はその力を隠す。ややこしいし、問題になりやすいからだ。それでまず人前では使えない。そして特に、能力を使わなくても、普通のもので何とかできることが多いのだ。よって、あまり役にたたない。
 オレの能力は、『禁止』<人に触れながら、禁止したいことを相手に理解させればその行動を禁止できる>というもの。条件なんかはいろいろ明日香や洸平で試してみた。使ってみるとわかるもんだが、高校生にはまったく必要無い。命令するがわにいないから、禁止させることがない。使えるとしたらさっきのような時ぐらいだ。せめて学級委員とかなら使えたかもしれない。どうせ真面目にやらんだろうが。
 洸平の能力は『高速再生』<身体を活性化させ、傷を瞬時に修復させる>。こっちはケンカとかに使えそうだ。
 明日香は『超感覚』<常人より遥かに高い感覚能力をもつ>。つまりはとてつもない視覚と聴覚と嗅覚と触覚と味覚をもっているということ。使えるか使えないか、やはり微妙。まあ、眼がいいのはいいことだ。
 キノさんは『壁』<空間に不可視の壁をつくり出す>。昨日は明日香もこれに助けられたらしい。本人は認めてなかったが。まあ、これも微妙。
 PKとかなら一人のときに横着できたりしたのに。まあ、今のままで使い道を考えよう、ということで。朝のような使い方をしたりしている。いいんだか、悪いんだか。……多分悪いんだろう。
 
          *     *     *

 この高校の出席確認はチャイムの時刻が基準だ。チャイムが鳴り終わるまでに教室に入ればセーフ。一秒でも遅ければアウト。余韻がなく、プチッと切れるので、ごまかしがきかない。教師は既に教室にいる。
 そのチャイムが、今鳴り始めた。現在地は一階昇降口。目的地は二階最奥の教室。全力疾走開始。すでにこの地面につくかという長い髪の毛で目をつけられている。遅刻が重なれば最悪留年もあり得るために、本気で走る。その髪の毛がうしろに水平になびいている。それだけの速度で走っている。右横の『廊下は歩く』のポスターを一瞬だけ視認。ふざけんじゃねえ、こちとら命かかってンだ。不安定な精神はポスターごときにも反応してしまう。
 あと五メートルちょっと。タイムリミットももうすぐ。
 キーンコーンカーンコ-……。
 ガラガラガラガラ。とドアを開け滑り込んだ時、ちょうどチャイムの音が切れた。
 ハァハァハァ……。
 とりあえず安心して自分の席にむかい、机に向って倒れる。
「ぐはぁぁぁぁ~」
 と、後ろの席からかん高い男の声が聞こえてきた。
「お疲れ、ハナちゃん。大丈夫だった? いつもよりちょっと遅いね」
 肩で息をしながら洸平は答える。
「すこし凶暴猿と格闘してたからな。それとハナって呼ぶな」
 ついでに何度目か判らない訂正。いきなり話しかけてきたのは後ろの席の田中。下の名前は知らない。というより、忘れた。一年のときからの腐れ縁で、二年生になった今でもいまだに田中で済ましている。特に問題はおきていない。…………はずだ。
「そんなことより、ハナちゃんの机の中に封筒入ってるよ。ラブレターかのろいの手紙か年賀状かはわからないけどね」
 オレの訂正を軽く無視し、田中は嬉しそうにオレに言う。
 何で嬉しそうなんだ? そして何故年賀状?
 よくわからないが、とりあえず手紙の封を開けようとして、……………………やめた。
 視線を感じる。背後から。わかりやすく言えば田中から。
「…………………」
「…………………」
 後ろでじぃぃぃぃぃっと見つめる人間がいたので、手紙は机の中へ。
 ラブレターはまずないが、もしもその手の手紙でそれを田中に見られるとなれば、オレはこのクラスのおもちゃへと成り下がってしまう。こいつの辞書にプライバシーという単語はない。
 それでも、田中が勝手にに人の郵便物を開けて見るような非常識なやつじゃなくてよかった、と思った。

 ショートホームルームが終わり、一時間目の教室移動の時にトイレに行って中を見た。
『沖山龍花さんへ
 一時間目の授業中に屋上に来てください
          あなたに恋する乙女より』
「…………………………………………………………………………」
 うさん臭さマキシマムのラブレターだった。

 騙されたわけでは断じてない。何故かって、まず一人称が『あなたに恋する乙女』の時点で、本気で書いたとしたならばどう考えても社会不適合者なのだから。どうせ手のこんだいたずら、もしくは果たし状なのだろう。
 オレは特に暴力関係で目立つ気はないのだが、微かに赤みがかって染めたように見えなくもないこの長髪を見たら、多分オレが上級生でも、生意気なやつだ、と思うと思う。よって、目をつけられていじめ(?)られるのだが、一介の高校生に過ぎない先輩方の技術では、キノさんと毎日と言っていいほど戦闘訓練をしているオレにかなうはずなく、結局返り打ちに会うことになる。そして、そうなると別の集団、または力に自信のある馬鹿共が集まってきたり、別の学校から挑戦状を叩き付けられたりしてしまう。それに勝つとまた別のやつ……で、デフレスパイラル突入ということになっていく(あれ? インフレスパイラル?)。どっかで負けてしまえばよかったのだが、それはそれで悔しいのでつい勝ってしまう。そんなこんなで敵多し。果たし状も現実味を帯びてくる。
 まあなんにせよ面倒ごとは早めに解決するに限る。
 と言うことで、屋上に来たのが十分前。まだ春とよんでいいはずの季節なのにこの暑い日射し。唸るような太陽。だんだんのぼっていく気温。本当に『口は災いの元』なのか? 思考回路も微かに麻痺し始めて来た。いい加減戻ろうかとも思ってきる。
 普通は呼び出した方が先に来るんじゃないか? だんだんと暑くなってきたのでもう教室に戻ろうと、屋上に通じるドアに向きを変え一歩踏み出した時、

「………ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおりゃあああああああ!!!」

 叫び声が上から聞こえた。遠くから近くに向ってくるように声がだんだん大きく聞こえてくる。
 どんっ、という音と同時に、階段の屋根の上に謎の男が着地した。そっちを見ると、ちょうどその時太陽がその男のうしろにあったため、男のほうを見ると後光がさしているように見えた。しかしあくまで気のせいだろう。……気、の、せ、い、だ、ろ、う。
「ハ~~~~ハッハッハッハッハッハ~~~~~~!!!」
 謎の男が腰に手を当て、謎の奇声を発している。
 がんばって目をこらして見ると、その男は眼鏡をかけていた。服装はどこかの学校の制服だろう、ワイシャツに下はベージュのズボンだ。優等生っぽい雰囲気をまとっているが、笑い声が全てを台なしにしている。その笑い声は三流の戦隊ものの悪役の笑い方に似ていた。
 とりあえず、笑い続ける男にむかって手紙を差し出し、一つ疑問に思ったことを言う。
「なあ、この手紙はお前のか?」
「そうとも! この私直筆の君に贈った手紙だ。じつはそれは罠だったのだが、まんまと罠にかかってくれてありがたい。これで一人で待っていたとなればとても美しくないのでな。こっちが礼を言いたい気分だ! よって礼を言おう。ありがとう!」
「いや、オレはべつに礼は言いたくない」
「そうか。まあそんなことはどうでもいい」
「いいのかよ」
「いいのさ。ところでそんなことを考えていてもいいのかい? 沖山龍花君。私の使命は君の抹殺なのだが、ぼ~っとしていて大丈夫なのか?」
「いや、だからそんなことは初めて聞いたし、抹殺って。っつーか、ばらしてもイイもんなのか? そのなんか機密事項っぽい事」
「正義のミカタはまず名乗る事から始めるべきだ。これが世界のおきてなのだからな」
「おきてなのか? そしてお前は正義なのか?」
「二つともイエスだ。そういえば私はまだ名乗ってなかったな。これではおきてに反する事になってしまう。ということで、私の名前は三鷹空海。三匹の鷹と空と海さ。どうだ、美しい名前だろう。かの修行僧空海と同じ名前であるぞ」
「いや、わからねえ」
「わからないのか!? そうか、この美しさが理解出来ないとは残念だ。ああ、本当に残念だ」
「で、あんたはなにをしに来たんだ?」
「もちろん君を殺しに来たのさ。しかしいきなり背後から一撃で葬るのはなかなか美しくないではないか! 本当の美しさとは、正義と悪と言う二つの力同士の拮抗の末の勝利と私は考えているのだよ。この会話はその両者の価値観のみぞを確認するためのいわば前振りに過ぎない! わかっているかね龍花君」
「別にわからなくていい……」
「それだ! それがよくない! 美しさに無関心になった人間は美しさを求める事が無くなる。それによってこの地球が美しく無くなっていく。ああ、なんて悲しい未来なのであろうか。私はそれを望んではいない。ゆえに、こうして今も美しさを求め続けているのだよ」
「美し………さ?」
「な……! なんだ今の最後の疑問符は!? もしや君は私が美しくないとでも言いたいのかね!?」
 眼鏡をしきりになおしながら、三鷹は言う。
「……………」
「ま、まあいい。それよりそろそろ始めようではないか」
「別にオレは待ってたわけじゃないんだが」
「そんな事は気にしない。美しければそれでいい」
「……バカだ」
「ああ、馬鹿で結構さ。そのかわり美しいからな!」
「そうか?」
 三鷹はオレの言葉を無視し、今まで組んでいた腕をほどき、まるで十字架のように両手を左右に大きく開く。
「さあ、はじめるぞ龍花君! まず先攻はこちらでいかせてもらおうか!」
 身勝手な、という暇もなく、三鷹は右手を上にかかげる。その手の中にはオレンジ色に光る光球が浮かび上がった。
「シャイニングゥゥゥゥ!」
 ピッチャーよろしく、ふりかぶり、
「バーーーーーニーーーーン!!!!!」
 絶叫とともに肩の関節が外れるかと思うほどの勢いで、手のひらをこちらに向けて突き出す。
 直後、爆音が轟いた。
 爆音の寸前に見た景色は、三鷹の手から放たれるいくつもの光球。それがコンクリートにぶつかった時の爆発。そして火炎。
 一瞬の内に屋上は火の海となった。
「っつーか! なん、で、叫ぶンだよ!」
 基本的に能力の発動に言葉はいらない。まあ、オレの能力、というか第弐種能力は催眠的な要素が強いので言葉を使う事もあるが、叫ぶ事はないだろう。
 明るさと熱さに身体が焼けそうになってくる中でも冷静にツッコんでる自分を自覚し、激しく自己嫌悪。
 そんなこっちの思いなどつゆ知らず、三鷹は余裕でオレの質問(ツッコミ)に答える。
「当たり前ではないか! それが何故かと問われれば、もちろん必殺ワザだからだ! 必殺ワザを大声で叫ぶというのは、常識を通り越して既にこの自然界の摂理なのだからな!」
「ああそうかい!」
 投げやりに答えながらこの状況の打開策を探す。まさかここまでやるとは正直思ってなかったが、やられてしまったものは仕方がない。熱にヤラれそうな脳みそをフル回転させて対策を考える。
 まずはこちらの戦力確認。コイルガンはバッテリーの充電中で撃てない。拳銃は持ってきてすらいない。屋上のこんなどまん中に武器が落ちているはずもなく、コンクリートを砕いて使うほどの勇気と根性と頑丈さは持ち合わせていない。能力は接触型なので、遠距離ではほとんど意味がない。つまりは徒手空拳。……やべえ。
 対して三鷹は『炎使い』と思う。というかそれ以外は有り得ないだろ。シャイニングなんたらとかいう変な名前をつけているが、あれは広範囲の火炎弾攻撃と見て間違いないし。遠距離でも近距離でも有効のはず。もし自分の炎が全く効かないという事であれば、近距離で炎を振り回され、直接殴る事も出来ない。
 どうする?
「美しくないな! じっとしているでけではほ乳類の薫製になってしまうぞ! 足掻け、逃げろ、抵抗しろ! 最後の最後まで美しく歌ってくれ! 美しく散ってくれ!」
 思考を中断させる嬉々とした三鷹の声が聞こえて来た。
 何で喜んでいるのかは宇宙開闢以来の謎だ。そういう事にしておく。
 しっかりと無視し、考えた末の答えは一つ。『能力の発動を禁止する』まあ考えなくても同じ結論に辿りついたのは間違いないだろうが。というかこれ以外に何かあるのか? まあとにかく実行に移すために動き出す。
 しかし、こちらのたどり着く結論が一つならば、少し考えればむこうも同じ答えを見つけているだろう。こちらの名前を知っていて、能力を使って殺そうとしている事から、こちらの『禁止』の能力が知られてる確率はかなり高い。
「……こりゃキツくなりそうだな」
「ハッハッハッハ、もう弱音かい?」
「ルーン無しで直接って時点で既にセコいわ」
 髪の毛に燃え移らないでくれよ。
 思いながら一気に駆け出す。
 右に三歩。切り返して左に一歩、すかさず再び右に駆け出す。視線を意識的に動かしフェイントを誘った上で移動。ワンテンポ遅れて髪の根元が。ツーテンポ遅れて髪先がひらひらと舞いながらついてくる。
 思惑どおり三鷹は左側に火炎弾を放ってくる。……無言で。ヲイヲイ。早速前言撤回ですか?
 自分で言った自然界の摂理を三鷹は完全に無視。無言で連続的に攻撃を放つ。いちいちツッコんでる暇もなく、再びオレは走る。
 放たれた火炎弾は一瞬遅れ、その結果標的(オレ)を掠め、オレのすぐうしろで激突。爆発。炎上。
 オレは爆風に乗り加速。屋上にたまたまあったポールに捕まり、そのまま半回転。重心の移動、遠心力、腕力、爆風による加速を利用し、右斜め横から飛び出し三鷹に一気に詰め寄る。
 その直後、オレの、「こちらの動きは読まれているだろう」という読みは当たり、何の問題もなく三鷹は振り返り、
 
 目が会った。

 すでに彼我の距離は2メートル。
 お互いに刹那の硬直。即座に互いに硬直から解放。
 三鷹は火炎壁を発動。その名の通りに炎の壁がオレの前に立ちふさがるが、その行動を予想していたオレは、すかさずそれに突っ込む。
 予想外の展開にかすかにうろたえる三鷹。
 オレのワイシャツにまとわリつく炎が熱さを告げるが無視。最後の一歩を全力で駆け出し、三鷹に飛びかかる。
 近距離の爆発系の能力で、カウンター。
 嫌な予想が頭をよぎった。しかし、あとには引けない。
『攻撃を……』
 手のひらを開いて、掌底を浴びせ、
『禁止する!!』
 同時に叫んだ。
 直後、『禁止』の効力が発動。三鷹の操っていた屋上の炎が、一瞬にして消え去っていった。
 すでに火がついてしまったワイシャツは戻らないのかと心配していたが、服の炎も消えていた。不思議な事に焦げてもいなかったが、運がよかったのだろう。
「おい、あ~~~、なんだっけ………え~~、そうだ三鷹!」
 オレの攻撃で吹っ飛んだ(といっても1メートルくらいなのだが)三鷹はすでに立ち上がり、オレが自分の服を確認している時に逃げようとしていた。
「は!? てめえまさかこのままですむと思ってンのか? この腐れナルシスト!」
 三鷹は振り向いて右手を「よっ」という感じで上げ、満面の笑みで言った。
「やられるところは全体的に美しくないのでな。まあ過去のことは水に流そうじゃないか、龍花君」
「ふざけてんじゃねエぞ! 三途の川の水で流してやろうか!?」
「はっはっは、現代の川の水は汚いらしいのでそれは却下だ。ではさらば!」
 なんだかよくわからないが、三鷹はいつの間にか、視界から消えていた。
「結局何で襲って来たんだよ?」
 肝心な事を聞いていなかったが、気にしない事にした。
「明日はなんか武器でも持ってくることにしよう」
 どうも所長と一緒にいると、面倒な事に巻き込まれる率が高い。それは別にいいのだが、学校内はやめてほしい。
 この平穏な生活を壊さないでほしい。
 オレは途中からでもと、教室にむかった。
 屋上のドアを開けたらチャイムが鳴った。さっき運がいいなんて言ったのは訂正。
 ……運が悪い。
  1. 1990/01/04(木) 01:01:00|
  2. 創作小説
  3. | コメント:0
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